目次
- はじめに
- 1章 不動産競売の基礎知識
競売のメリットとリスク - 2章 競売手続の概略
競売手続フローチャート - 3章 裁判所資料(3点セット)の種類と内容
期間入札の公告 - 4章 物件明細書
売却により成立する法定地上権の概要
買受人が負担することとなる他人の権利
物件の占有状況等に関する特記事項
その他買受けの参考となる事項 - 5章 現況調査報告書
- 6章 評価書
公法上の規制等の説明 - 7章 引渡命令の概要
強制執行手続の流れフローチャート - 8章 用語集
はじめに
最新の報道によれば、2024年度には競売の件数が15年ぶりに増加に転じ、前年比で300件以上増加したとのことです。その背景には、かつて中小企業の資金繰りを支援した中小企業金融円滑化法の終了や、コロナ禍後の経済回復の鈍化に伴う物価上昇、住宅ローンの金利上昇などが複合的に影響している可能性が指摘されています。今後、社会経済情勢がどのように推移するかによって、競売市場の動向も変化していくことが予想されます。
そもそも不動産競売は、返済が滞った債務の担保物件や、民事裁判によって差し押さえられた不動産を、裁判所の手続きを通じて取得できる制度です。かつては専門業者以外には敷居の高いものでしたが、民事執行法の改正と手続き制度の整備が進み、以前とは比較にならないほど、公正かつ安全に不動産を取得できるようになりました。
かつて、ほとんどの物件が「競売屋」と呼ばれる専門業者によって扱われていた時代を知る者からすれば、隔世の感があります。当時は、手続きが煩雑な上に制度の不備も多く、物件を不法に占有する「占有屋」が横行し、収益を得るまでに時間も費用もかかり、「カネがかかる」「怖い」「危険」な「3K」物件が多数存在しました。競売物件は、まさにハイリスク・ハイリターンな不動産の典型だったのです。
しかし、平成3年以降、数度にわたる民事執行法の改正と関連法案、制度などの整備によって、誰もが競売に参加しやすい仕組みが整いつつあります。特に、物件明細書、評価書、現況調査報告書の3点セットをインターネットで閲覧できる「BIT」システム導入後は、入札参加者が飛躍的に増加しました。それに伴い、落札率も上昇を続け、2010年以降は、多くの都道府県で高い水準を維持しています。1990年代の東京地方裁判所本庁における落札率は5~8割程度でしたが、2014年度上半期には99.1%という驚異的な高落札率を記録しました。
この競売不動産の人気の理由は、何と言っても市場価格より2割程度、場合によっては半値以下という割安感にあります。近年、落札価格は上昇傾向にありますが、一般の購入者でも、不動産業者の仕入れ価格に近い価格で購入することが、依然として可能です。
もっとも、不動産競売には大きな欠点も存在します。物件の権利関係、価格の算定根拠、内部の状況などは、原則として3点セットの情報からしか把握できません。「競売にも内覧制度があるのではないか?」という質問を受けることがありますが、実際にはほとんど利用されていないのが現状です。もちろん、通常の不動産売買のように、現地で近隣住民に話を聞いたり、役所調査を行うことは可能ですが、最も重要な物件の権利関係、賃貸借契約や法定地上権の有無、占有者の情報、物件内部の状態などは、基本的に3点セットに記載された内容に基づいて判断するしかありません。
不動産競売は、消費者保護制度が整備された宅地建物取引業法の下で行われる取引ではありません。民事執行法に基づき、債務者の不動産を換金するための制度であり、リスクはすべて自己責任となります。したがって、競売で失敗しないための第一歩は、何よりも正確に3点セットを読み解くことです。この記事では、専門用語が多く、難解に感じられる3点セットについて、できる限り初心者の方にも理解できるように解説しました。もともとは商工ほうむ不動産株式会社が発行した「不動産競売で失敗しないための 3点セットの読み方マスターブック」の内容を改変したものです。この記事が皆様の一助となれば幸いです。
1章 不動産競売の基礎知識
競売物件への入札・落札は、裁判所が扱う競売事件の当事者になるということです。裁判所では、すべての事件に個別の事件番号が付与され特定されます。競売事件の事件番号は、例えば東京地方裁判所本庁令和7年(ケ)1234号、東京地方裁判所立川支部令和7年(ヌ)1234号のように表示されます。これは、管轄裁判所、申立年度、( )内の符号、申立順の番号という構成になっています。ちなみに、一般的に競売は「きょうばい」と読まれることが多いですが、裁判所では「けいばい」と呼びます。
競売事件には、担保不動産競売事件、強制競売事件、そしてごくまれな形式競売事件の3種類があります。
① 担保不動産競売事件(符号:ケ):不動産に設定された担保権(主に抵当権)を実行するため、不動産を差し押さえて売却する手続きです。不動産購入時の住宅ローン返済が滞り、競売になるのが典型的なケースです。ただし、事業資金や根抵当権の設定による融資の場合もあり、その際は土地の一部が競売から除外されていることもあるため、登記簿での担保権者の確認は必須です。
② 強制競売事件(符号:ヌ):裁判所の判決、和解、調停内容の実現や、執行文付き公正証書の内容を実現するために、不動産を差し押さえて売却する手続きです。
③ 形式競売事件(符号:ケまたはヌ):遺産分割、共有物分割、破産手続きなどで、不動産を換価する必要がある場合に利用される競売手続きです。実務上、符号は(ケ)で表示されることがほとんどです。
いずれの競売事件も、売却手続き自体は共通です。
ただし、(ヌ)の強制競売事件は特に注意が必要です。 裁判を起こしてまで差し押さえ競売にかけた債権者と、それでも支払いをしなかった債務者がいる可能性があり、落札後にトラブルに発展するケースや、共有持分のみの売却であることも多いため、競売初心者の方は避けるのが賢明かもしれません。
安すぎる物件には要注意!
1万円マンション:滞納管理費・修繕積立金・遅延損害金は落札者が引き継ぐ義務があります。
安すぎる建物:土地の利用権がない場合があり、最悪の場合、建物を撤去して土地を明け渡さなければならないことがあります(建物収去土地明渡)。
単独で利用できない物件:共有持分のみの売却の場合、持分割合によっては単独で賃貸に出すことすら難しいことがあります(2分の1未満など)。
競売のメリットとリスク
競売の最大の魅力は、市場価格よりも安く購入できる可能性があることです。これは、競売物件特有のリスクを考慮し、売却基準価額が減額されるためです。一般流通物件と比較しても割安な価格で購入できるチャンスがあり、業者だけでなく一般の方も公正なシステムで競り合うことができます。
しかし、競売には特有のリスクも多く存在します。物件を明け渡されるまで内部を見学できない、物件調査を短期間で済ませる必要がある、占有者との明け渡しトラブルなどが挙げられます。
落札後のトラブルは、民法などの法律に基づき当事者間で解決するしかありません。裁判所は仲介責任を負わず、契約不適合責任もありません。当事者間で解決できない場合は、訴訟などの法的手段が必要になることもあります。通常の不動産取引と比べて、競売は自己責任とリスク管理がより強く求められる市場であることを理解しておきましょう。
安競売物件は玉石混交で要注意!
競売物件は、良質なものからそうでないものまで、まさに玉石混交です。法律上、売却に支障がない限り、あらゆる不動産が競売の対象となり得ます。例えば、以下のようなケースには注意が必要です。
- 一般の利用価値が低い土地や建物
- 建物を建てることができない宅地
- 落札後すぐに取り壊して明け渡す必要のある建物
- 長期間の賃貸借契約があり、賃料収入のみが期待できる土地や建物
- 金融機関の融資を受けにくい土地や建物
通常の不動産取引との違い
競売物件は、一般的な不動産取引と比較して、以下のような違いがあります。
- 内覧の制限: 申立債権者の協力が得られた場合を除き、建物内部の確認が難しいのが現状です。内覧制度自体、ほとんど実施されていません。
- 引渡しの不確実性: スムーズな物件の引渡しは保証されていません。悪質な占有者が居座っているケースもあります。
- 自己責任の原則: 鍵の受け渡しなど、物件の引渡しに関して裁判所は一切関与しません。元所有者や占有者は、物件を強制的に売却された立場であるため、買受後の引渡しに協力が得られないことも少なくありません。引渡命令や訴訟などの法的手段が必要になる場合が多くあります。
- 早期の代金納付: 売却許可決定後、約1ヶ月という短い期間で残代金を納付する必要があります。ローン特約もありません。代金納付ができなければ、保証金を没収されてしまいます。
- 契約不適合(瑕疵担保)責任の免責: 物件に欠陥があっても、原則として売買契約の解除や損害賠償請求はできません。できたとしても、訴訟などの困難な手続きが必要となることが多いです。
競売に入札する際は、必ず3点セット(物件明細書、現況調査報告書、評価書)を熟読し、可能な範囲で現地を調査し、十分納得してから判断しましょう。ご自身で判断に迷う場合は、弁護士や競売を得意とする不動産業者など専門家からアドバイスを受けることを強くお勧めします。関東近県であれば、弊社でもサポート可能です。
2章 競売手続の概略
競売手続きは、不動産に競売開始決定による差押登記がされることで始まります。買受希望者にとっての競売への参加は、期間入札の公告と同時に、物件の詳細を確認できる「3点セット」の閲覧が可能になった時点からスタートします。
この3点セットは、各管轄の地方裁判所で閲覧できるほか、執行裁判所の公式サイトである不動産競売物件情報サイト(http://bit.sikkou.jp/)や、不動産競売流通協会(FKR)が運営するサイト「981.jp」(http://981.jp/)でも閲覧できます。981.jpは、情報の掲載に半日程度の遅れがあるものの、多彩な検索機能が備わっており、より使いやすいでしょう。
競売物件の売却方法には、期間入札と特別売却の2種類があります。どちらの手続きで売却されるかは、公告書に明記されています。通常、期間入札の公告には、特別売却の期間も併記されています。
① 期間入札
一定期間入札を受け付け、開札期日に開札が行われます。買受可能価額(売却基準価額の8割)以上で、最も高い金額で入札した人が最高価買受申出人に指定され、売却許可決定を受ける資格を得ます。つまり、最高値を付けた人が落札者となります。
入札の際には、買受申出保証金(通常、売却基準価額の2割)を納める必要があります。最高価買受申出人と次順位買受申出人以外の人が納めた保証金は、開札後速やかに返還されますが、落札後にキャンセルした場合、保証金は返金されません。
② 特別売却
期間入札で適法な入札者がいなかった場合に実施されます。特別売却期間内に、買受可能価額(期間入札と同じ)以上の金額で、最初に適法な買受けの申し出をした人に、売却許可決定を受ける(落札者となる)資格が付与されます。
特別売却の実施予定時間に複数の買受希望者がいた場合は、その場で期日入札が行われ、最も高い金額で入札した人が落札できます。買受けの申し出の際に買受申出保証金を納める点は期間入札と同様ですが、この際は現金を裁判所窓口まで持参する必要があります。
入札書類は郵送も可能!ただし「信書便」限定です。 郵便局のレターパックは利用できますが、宅配便(メール便など)は「信書」に該当しないため無効となりますのでご注意ください。
競売手続フローチャート
①公告・閲覧開始
- 裁判所による競売開始決定後、差押登記が行われます。
- 買受希望者にとってのスタートは、期間入札の公告と同時に「3点セット」の閲覧が可能になる時点です。
- 3点セット閲覧場所:
各管轄地方裁判所
不動産競売物件情報サイト(http://bit.sikkou.jp/)
不動産競売流通協会(FKR)運営サイト「981.jp」(http://981.jp/) - 注目ポイント: 差押えられた物件の情報は、配当要求終期の公告により半年以上前から公開されています。この情報を元に、任意売却業者が所有者と交渉し、売買契約が成立すると競売が「取下」げられることもあります。
②物件の検討
- 入札を検討する物件が見つかったら、入札書類一式を執行裁判所へ請求します(返送用封筒を同封すれば郵送での取り寄せも可能です)。
③物件調査
通常の不動産取引では売買契約後に行う調査を、入札前に必ず行います。
- 現地調査: 物件の状況、周辺環境、近隣住民や占有者の情報を収集します。所有者に接触できれば、任意売却の可能性も探ります。
- 役所調査: 建築制限などの公法上の制限、ライフライン(電気・ガス・水道など)の配管図などを取得します。
④入札価額の検討
- 過去の類似物件の落札額、一般市場価格、収益物件の場合は利回りなどを総合的に検討し、入札価額を決定します。
⑤保証金振込・入札
- 決定した入札価額に基づき、買受申出保証金(通常、売却基準価額の2割)を指定口座に振り込みます。
- 入札書類を作成し、執行裁判所へ提出します。入札書類は郵送での提出も可能ですが、「信書便」に限られます(郵便局のレターパックは可、宅配便は不可)。
⑥落札(最高価買受申出人決定)後
手続きは期間入札も特別売却も同様に進みます。
- 開札日:もっとも高い値段を付けた者が最高価買受人となります。
- 落札者がいなかった場合は、特別売却へと移行します。特別売却は先着順となります。同時間に複数人がいた場合は、その場で入札して、高い値段を付けたものが最高価買受人となります。
- 売却決定期日: 最高価買受申出人決定から約2~3週間後。以前は1週間後でしたが、暴力団関係者でないことを調査するため2~3週間必要です。地裁ごとに期間は違います。
- 売却許可決定確定: 不服の申し立て(執行抗告)がなければ、売却決定期日の1週間後に売却許可決定が確定します。
- 代金納期限通知 発送: 売却許可決定確定から約1~2週間後。
- 代金納付:
- 代金納付日は、裁判所から送付される代金納期限通知に指定されています(実務上、通知発送から約1か月後ほど)。
- 指定された納期限までに代金を納付できない場合、買受人の地位を失います。保証金は没収されます。
- 代金納付は、銀行振込だけでは完了せず、裁判所窓口での納付手続きが必要です。
- 代金納付と同時に、物件の所有権が買受人に移転します。
- 引渡命令の申立: 代金納付後6か月以内(明渡猶予の権利を有する占有者がいる場合は9か月以内)。
- 登記識別情報通知書 発送: 裁判所より買受人へ登記識別情報通知書が発送されます。交付を希望しない旨を申し出た場合は送付されません。
3章 裁判所資料(3点セット)の種類と内容
競売物件のファイルには、①期間入札公告書、②物件明細書、③現況調査報告書、④評価書の写しがつづられています。このうち物件明細書、現況調査報告書、評価書がいわゆる3点セットです。3点セットは、それぞれ作成者(著者)が異なります
期間入札の公告
最初の公告書のページの文字や数字は、入札する場合は何度も確認する必要があります。1文字でも間違えると有効な入札にはなりません。
①事件番号
この公告書の事件番号は正確には「さいたま地裁川越支部平成25年(ケ)230号」となります。
②入札期間
郵送の場合は、期日までに必着です。消印有効ではありません。
③開札期日
入札時には開札期日も記入します。
④売却決定期日
⑤特別売却実施期間

⑥物件番号 物件の表示や地番、建物番号等は次ページ以降につづられている物件目録で確認します。番号は入札書等に記入しますので要確認です。
⑦売却基準価額 評価人の評価にもとづき、裁判所が定めた不動産の売却の基準となるべき価額。
⑧買受可能価額 入札額がこの価額以上(この価額を含む)でなければ有効な入札とならないという価額です。売却基準価額からその10分の2に相当する額を控除した額。つまり売却基準価額の8割以上の値段を付けなければ落札できないこということです。
⑨一括売却の表示 一括売却とは、そこに示された物件を一括して売却するという売却条件です。この場合、個別の物件のみの入札はできません。
⑩買受申出保証額 入札に参加する際、裁判所に提供しなければならない保証金の額。通常は売却基準価額の2割相当です。
⑪固定資産税・都市計画税の額 登記費用や不動産取得税を計算するための参考です。競売申立時の公課証明書により記載され直近のものではない可能性があります。

4章 物件明細書
物件明細書は、執行裁判所の書記官が、現況調査報告書や評価書などの資料に基づいて作成する重要な書類です。この書類には、法定地上権の概要、落札者が引き継ぐ必要のある他者の権利(主に賃借権)、物件の占有状況など、入札を検討する上で非常に重要な情報が記載されています。
競売物件を取り巻く複雑な権利関係について、登記記録に現れている事実と、それに基づく裁判所書記官の物件明細書作成時点での法的見解が示されたものが物件明細書です。ただし、これはあくまでその時点での認識であり、利害関係人間の権利関係を最終的に決定する効力はありません。今後の訴訟などによって、異なる判断が下される可能性もあることは理解しておく必要があります。一方で、物件明細書の記載は、将来的な法的手続きにおいて重要な証拠となる場合もあります。
物件明細書だけでは理解しづらい点もありますが、同じく「3点セット」に含まれる現況調査報告書や評価書、そして当サイトの情報などを併せて読み解くことで、より深く物件の状況を把握できるはずです。

①不動産の表示
物件目録には不動産ごとに番号が振られており、それぞれ土地の地番や建物の家屋番号が記載されています。
②売却により成立する法定地上権の概要
競売の結果、土地とその土地上にある建物が別々の所有者になってしまうことがあります。建物だけが残されて利用できなくなる事態を避けるため、民法では一定の要件を満たすと、法律上当然に建物所有者が土地を利用できる権利、つまり地上権が発生すると定められています。この地上権を「法定地上権」といいます。 法定地上権の地代その他の内容は、当事者間の協議で決めることになりますが、協議が成立しないときは、訴訟などを提起して裁判所にこれらの条件を決めてもらうことになります。
法定地上権成立の4つの要件
○抵当権設定時、土地上に建物が存在していたこ
○抵当権設定時、土地と建物の所有者が同一人物であったこと
○土地と建物の一方または双方に抵当権が設定されていたこと
○競売の結果、土地と建物が別々の所有者に帰属したこと

上の図の債務者Aは、当初、土地建物を両方所有していました。その後、土地だけに抵当権が設定され、競売でCに売却されることに。この場合、建物には法定地上権が成立して、Aは家を解体して土地を明け渡すことはせずに、そのまま家を所有して住み続けることができます。逆に買受人Cは自分で土地を利用することはできず、現状では地代を受け取る権利しか得ることができません。
物件明細書「法定地上権」欄の記載例と解説
物件明細書の「法定地上権」欄は、競売物件の権利関係の中でも特に重要なポイントです。土地と建物が別々の所有者になる可能性がある競売において、建物の利用を確保するために発生する権利について記載されています。以下に、記載例とその意味を解説します。
「売却対象外の土地(地番○○番)(の一部)につき、本件建物のために法定地上権が成立する」 売却対象は建物だけのケースです。本件建物のために、売却対象外であるその敷地(地番○○番の土地)に対して、建物を所有し利用するためにその土地を利用する権利、すなわち法定地上権が成立することを意味します。
「上記法定地上権は、土地の平成○年○月○日付け抵当権設定登記に後れる」
売却対象は建物だけです。建物のために法定地上権が成立しますが、敷地に先順位の抵当権設定登記があるため、買受人は敷地の抵当権者に法定地上権の成立を主張することができません。その結果、敷地が競売で売却されると法定地上権が消滅し、建物を収去(取壊し)して土地を明け渡さなければならない可能性があります。 登記では、先に登記されたもの(先順位)が、後のもの(後順位)に優先するのが原則です。
「本件土地(の一部)につき、売却対象外の建物(家屋番号○番)のために法定地上権が成立する」
売却対象の土地上に、売却対象外の建物があるケースです。建物のための法定地上権が成立するため、本件土地を買受けても法定地上権が続く間は、買受人は土地を自ら利用できません。ただし、借地人(建物所有者)に対し地代を請求することはできます。
「本件土地(の一部)につき、売却対象外の建物(家屋番号○番)のための法定地上権の成否は不明であるが、これが成立するものとして売却基準価額が定められている」
現況調査等によっても、法定地上権が成立するかどうかが不明の場合もあります。このような場合でも買受人が不測の不利益を被らないために、法定地上権が成立することを前提として売却基準価額を定めたという意味です。
「なし」と記載してあるもの
売却対象である土地についても、また売却対象である建物のためにも法定地上権の成立がない場合の記載です。敷地と建物が一括売却の場合は、どちらとも買受人が所有権を取得しますから法定地上権は「なし」となります。 この場合でも、評価書上では法定地上権を考慮して価格を決めています。競売手続においては、敷地と建物のそれぞれの内訳価格を算出する必要があるからです。土地建物一括売却の場合、土地は法定地上権付き建物がある敷地としての価格、建物は法定地上権によって敷地利用権が付いた建築物としての価格となります。
③買受人が負担することとなる他人の権利
この項目には、競売物件を落札した場合に、買受人が自動的に引き継ぎ、負担しなければならない権利や義務など重要な内容が記載されています。いわば、物件に付随する「契約」のようなものです。物件によっては、多額の金銭負担が発生するケースも少なくありません。記載内容を十分に理解しないまま入札すると、思わぬ不利益を被る可能性があります。記載内容に不明な点がある場合は、安易に入札せず、必ず弁護士や専門の不動産業者など専門家にご相談ください。
「上記賃借権は最先の賃借権である」
これは、その賃借権が、その物件に設定されている最も早い抵当権よりも前に成立していることを意味します。抵当権の登記よりも先に賃貸借契約が締結されているか、または賃借人が居住を開始している日付で判断します(賃借権は登記がなくても有効な場合があります)。
この場合、落札者は、第三者である賃借人に対して、引き続きその物件を賃貸する義務を負います。法律上の正当な理由がない限り、この賃貸借契約を解約することは非常に困難です。
「上記賃借権は最先の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できる」
期限がある賃借権が、その物件に設定されている最も早い抵当権よりも前に成立していることを意味します。物件明細書に記載された賃貸借期間が満了した後(更新時期を迎えた後)でも、賃借人は落札者に対して更新後の賃借権を主張することができます。したがって、落札者は更新後の賃貸条件に従って、引き続き賃貸借契約を継続しなければなりません。
「上記賃借権は抵当権設定後の賃借権である」
最も順位の高い抵当権(最先順位の抵当権)よりも後に契約された賃借権です。これらの賃借権は、原則として抵当権に劣後するため、競売による売却によって消滅する可能性がありますが、一定の「短期賃借権」として保護される場合がありました(平成16年4月1日施行の民法改正により短期賃貸借保護制度は廃止。経過措置として、平成16年3月31日以前の契約にはなお適用される可能性あり)。これは、短期賃借権が借地借家法26条1項の法定更新により、期間の定めがない賃貸借契約となった場合などに記載されます。買受人は原則としていつでも解約を申し入れることができますが、解約申し入れから契約が終了するまでには6ヶ月以上の期間が必要となるため、引渡命令の対象とならない可能性もあります。なお、短期賃借権が認められるのは、平成16年3月31日以前に契約されたもので、現在はほぼすべて当初の契約期間が満了していると考えられます。満了後、法定更新されていた場合はこのケースに該当します。
「上記賃借権は抵当権設定後の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できない」と記載
最も順位の高い抵当権(最先順位の抵当権)よりも後に契約された賃借権で、賃貸借契約に期間の定めがある場合に記載されます。買受後に契約更新期を迎えた場合、賃借人は買受人に対して更新後の賃借権を主張することはできず、買受人は更新に拘束されません。契約期間が満了すれば、買受人は賃借人に対して物件の明け渡しを求めることができます。平成15年の民法改正により短期賃貸借保護制度は廃止されましたが、経過措置により、平成16年3月31日以前の契約にはなお適用されます。契約満了ごとに契約を更新し続けていた場合が、この記載になる可能性があります。
重要な注意点: 買受人に対抗できないものの、明渡猶予期間(代金納付日から6ヶ月)が与えられる賃借権については、「物件の占有状況に関する特記事項」欄に記載されています。この場合、6ヶ月の猶予期間経過後、さらに3ヶ月以内に引渡命令の申立てが可能となりますので、混同しないようご注意ください。
「上記賃借権は、抵当権者の同意の登記がされた賃借権である」
「上記賃借権は、抵当権者の同意の登記がされた賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できる」
抵当権よりも後に設定された賃借権ですが、その後に優先するすべての抵当権者がこの賃借権に同意した旨の登記(抵当権者の同意の登記)がある場合です。この場合、買受人は賃借人に対し、引き続きその物件を賃貸する義務を負います。賃借権の内容は、登記されている範囲に限定されます。前者は、賃貸借契約に期間の定めがない場合の記載。後者は賃貸借期間がある場合ですが、期間満了後に契約が更新された場合(法定更新も含む)、賃借人は買受人に対して更新後の賃借権を主張することができます。したがって、買受人は更新後も更新内容に従って引き続き賃貸借契約を継続しなければなりません。いずれも法律上の正当な理由がない限り、この賃貸借契約を解約することは困難です。
「賃借権の存否(占有権原の存否、占有権原の種別)は不明であるが、最先の賃借権が存在するものとして売却基準価額が定められている」
「賃借権の存否(占有権原の存否、占有権原の種別)は不明であるが、抵当権に後れる賃借権が存在するものとして売却基準価額が定められている」
現況調査や裁判所の審尋などを行っても、賃借権の有無や占有の根拠が特定できない場合があります。その場合、落札者がその賃借権を必ず引き継ぐとは限りませんが、占有者が後に賃借権の存在を証明した場合、落札者はそれを引き受けなければならない可能性があります。そのため、買受人が不測の不利益を被らないよう、売却基準価額は賃借権が存在することを前提として定められています。賃借権の内容が判明していれば、「その内容の賃借権がある」ものとして売却価額が決定されます。前者は、買受人が「最先の賃借権」を引き受けることを前提とし、後者は買受人が「抵当権に後れる賃借権」を引き受けることを前提として売却基準価額が算出されたことを意味します。賃借権が不明な場合の引渡命令の申立てについては、後述の「引渡命令の概要」も併せてご参照ください。
期限の「定めなし」
賃貸借について期間の定めがない場合です。契約当初から定めがない場合と、期間の定めがあったものの借地借家法により法定更新され、期間の定めがないとみなされる場合があります。最先の賃借権の場合は、期間の定めがある場合と同様に解約が難しいことがあります。
「○○円(売却基準価額は、左記敷金(又は保証金)の返還義務を考慮して定められている)」
落札者が賃貸借契約を引き継ぐ場合、未払賃料や損害金を差し引いた敷金・保証金の返還義務も引き継ぐため、評価額から返還義務のある敷金・保証金が控除されています。敷引き特約がある場合でも、契約時の預かり額が表示されます。ただし実際に返還する額は、評価額に拘束されません。
「不明 敷金(又は保証金)○○円の主張があるが、過大であるため、適正敷金(又は保証金)額を考慮して売却基準価額が定められている)」
裁判所が返還義務額を不明と判断し、賃借人の主張額が過大であるため、適正額を想定して売却基準価額を定めたという意味です。実際の返還額は賃借人との協議または法的手段で決定します。買受人が返還義務を引き受けないとされた敷金・保証金は、賃借人と元の所有者間で解決しなければなりません。
「地上権」の記載
他人の土地の地上または地下に建物などを所有するために土地を使用する権利(法定地上権を除く)。最先順位の抵当権より先に登記されている場合は、落札者が引き継ぎます。
「地役権」の記載
他の土地の利便性を高めるために、対象土地を利用する権利(通行、引水など)。最先順位の抵当権より先に登記されている場合は、落札者が引き継ぎます。
「留置権」の記載
対象物件の占有者が、その物件に関して生じた債権(修繕費など)を持つ場合、弁済を受けるまで引渡しを拒否できる権利。落札者はこの権利を引き継ぎ、債権を弁済しなければ引渡しを受けられません。債権額には遅延損害金などが加算されることもあります。悪質占有者が留置権を主張することがありますが、実務上は「買受人が負担する他人の権利」欄に記載がなければ、負担の必要はない可能性が高いです。
「質権」の記載
最先順位の抵当権より先に登記された、使用収益をしない旨の定めのない質権(不動産を質権者が実際に使うケース)は、落札者が引き継ぎます。質権の存続期間内は、債権を弁済しない限り引渡しを受けられません。存続期間は更新されることがあります。
「仮処分」の記載
本件所有者以外の第三者から、本件所有者に対して行われた一時的な法的措置。落札者はその内容を引き継ぎ、権利関係に制約を受ける可能性があります。
「なし」
買受人が負担しなければならない他人の権利はないと認められる場合に記載されます。ただし、実際の占有状況は「物件の占有状況等に関する特記事項」や現況調査報告書を必ず確認してください。
④物件の占有状況等に関する特記事項
実際の占有の状況やその根拠が、「買受人が負担することとなる他人の権利」とは認められないと裁判所書記官が判断した内容を記載したものです。これは現況調査報告書等をもとに記載されています。執行官の現況調査は、競売公告時より3か月~1年以上前で、その後に占有状況が変わっている場合もありますから気を付けてください。
この欄に記載された占有者は、原則として引渡命令の対象となります。また、現況調査や物件明細作成後に占有者が変わっていても「差押え後の占有者」として、引渡命令の対象となります。
※所有者及び所有者に準じる者が占有しているケース
「本件所有者(又は債務者)が占有している」
競売物件の所有者又は実行された抵当権の債務者が占有しています。原則として所有者と本件競売事件の債務者は買受人に対して、占有権原を主張できません。現実に居住している場合のほか、長期間不在や空き家のケースもあります。また、空き家といっても完全な空き家ではなく、残置物が残ったままのことがあります。いずれの場合も鍵の受渡しは、強制執行の場合を除き、執行裁判所は関与しません。
「売却対象外の共有持分を有する○○が占有している」
複数人の共有物件で、今回の競売で対象となっている持分以外の共有持分権者が占有している場合です。この占有者には、引渡命令が発令されない可能性があります。
「○○が占有している。△△の占有は認められない」
○○は裁判所書記官が認定した占有者です。△△は、占有の主張をする者や占有の外観を作っているにすぎない者を意味します。執行官の現況調査において占有を主張する者がいたり、占有しているフリをしている場合でも、その実態がなかったり、他人の占有に依存した利用状態にすぎないような者についての判断を記載したものです。
「○○が占有している。同人の占有権原の存在は認められない」
他人の不動産の占有者は、通常、所有者との間で何らかの使用権(占有権原)の設定がなされていますが、そのような権原があるとは認められない者が占有している場合です。
「(株)○○が占有している。同社の代表者は本件所有者(又は債務者)である」
法人が占有し、その法人の代表者が所有者か実行された抵当権の債務者の場合です。法人の規模や状況を考え、執行手続上所有者(又は債務者)と同視しています。
「○○が占有している。同人は本件所有者(又は債務者)会社の代表者である」
法人が不動産の所有者か実行された抵当権の債務者で、その法人の代表者が占有しているという意味です。占有者が、所有者(又は債務者)会社の代表者という特別な関係にあることから、占有権原を主張することが信義則に反すると認められ、執行手続上所有者と同視できるとされています。
「○○が占有している。同人は実行された抵当権の債務者である」
手続進行中の競売事件の債務者(所有者)ではないが、その事件の原因となった抵当権の債務者(所有者以外の者)が占有しているという意味です。この場合は占有権原を主張することはできず、所有者と同視できると考えられています。
「○○が占有している。同人は実行された抵当権の設定時の所有者であった」
競売事件のもとになった抵当権設定時の所有者が、その後に不動産を譲渡したが、現在もそのまま占有しているケースです。被抵当権設定者が、占有権原を主張して買受人に対し引渡しを拒むことは著しく信義に反するので、執行手続上は所有者と同視されます。
「○○が占有している。同人は実行された抵当権の設定後の所有者であった」
競売事件のもとになった抵当権を設定した者から不動産を譲り受け、更にこれを他に譲渡したが、現在も物件を占有しているという意味です。このような中間所有者は、執行手続上は所有者と同視できると考えられています。
「○○が占有している。同人は所有権を主張している」
登記名義上の所有者と異なる者が所有権を主張し、占有している場合です。所有権の譲渡を受けて不動産を占有していたが、その所有権移転登記をしないまま競売事件となったケース、他人名義で不動産を取得した者が自ら占有している場合など、事実関係が事案ごとに異なります。所有権について争いが起きる可能性も高く、注意が必要です。なおこのような占有者は、執行手続上は、買受人にその占有を対抗できません。
※第三者が占有しているケース
「○○が占有している。同人は実行された抵当権以外の債務者である」
賃借権を主張する者が、競売の対象となった抵当権とは別の抵当権の債務者である場合(所有者である場合を除く)、その者が債務不履行状態であれば、たとえその賃借権が最も順位の高いものであっても、買受人が引き継ぐべき賃借権とは認められないことがあります。
「○○が占有している。同人の占有権原は使用借権と認められる」
使用借権とは、無償で物を借りる権利です。使用借権は、買受人に対してその権利を主張できず、買受人が引き受けるべき権利とはなりません。
「本件は、平成8年改正前の民事執行法が適用される事件である」
平成8年改正前の民事執行法が適用される競売事件では、引渡命令の対象が現行法よりも狭く、占有者の占有権原が買受人に対抗できない場合でも、所有者との正当な契約に基づいている限り、引渡命令が発令されない可能性がありました。この場合、任意の明け渡しが得られなければ、訴訟などの方法によることになります。(注)平成8年8月31日以前に申し立てられた競売事件が該当します。
「○○が占有している。同人の賃借権は、正常なものとは認められない」
これは、抵当権に後れる賃借権が、旧民法下の短期賃借権保護制度(平成16年4月1日廃止)の適用を受ける場合でも、その利用目的や実態から正常なものと認められない場合に記載されます。本来の利用目的でない場合や、債権回収目的、管理運営目的の賃借権などが該当します。現行民法が適用される占有でも、この記載がある場合は明渡猶予期間は認められません。
※賃貸物件の賃借人が占有者のケース
「○○が占有している。同人の占有(又は賃借権)は差押えに後れる」
競売手続きの差押え後に占有を開始した者は、その占有権原を買受人に対抗できません。
「○○が占有している。同人の賃借権は抵当権に後れる」
抵当権設定後に設定された賃借権は、原則として買受人が引き継ぐ必要はありません。
「○○が占有している。同人の賃借権は抵当権に後れる。ただし、代金納付日から6か月間明け渡しが猶予される」
抵当権設定後に設定された賃借権であっても、一定の要件を満たす場合には、買受人が代金を納付した日から6ヶ月間の明渡猶予期間が与えられます。ただし、買受人が賃料を催告し、相当期間内に支払がない場合は猶予は失われます。
「○○が占有している。同人の賃借権の存否(占有権原の存否、占有権原の種別)は不明であるが、代金納付日から6か月間明け渡しが猶予される賃借権が存在するものとして売却基準価額が定められている」
現況調査や裁判所による審尋等の結果によっても、賃借権の有無が分からない場合や占有権原が特定できないことがあります。その場合、明渡猶予が認められることは確定していませんが、占有者が賃借権の存在を証明すると明渡猶予が認められることになります。買受人がその不利益を被ることのないように売却基準価額が定められたことを意味します。
明渡猶予制度 :競売での所有権移転(代金納付)時より6か月間、占有者に建物の明け渡しを猶予する制度。買受人(抵当権)に対抗できない賃借権しかなくても、競売手続の開始(差押)前から所有権移転後まで、実際に使用収益をしている者に対して与えられます。また差押え後でも、強制管理、担保不動産収益執行の管理人がなした賃借権者にも与えられます。ただし1か月分以上の賃料の支払いを買受人より催告され、相当の期間内にその履行がなければ、その占有者に明渡猶予制度は適用されなくなります。
「○○が占有している。同人の占有(又は賃借権)は仮差押えに後れる」
本件競売手続の差押え前に別の仮差押えが登記され、それに後れる占有者がいることを意味します。この占有者が賃借権にもとづいて占有していたとしても、仮差押えに後れているので、賃借権は売却によって消滅し、買受人が負担を引き受けることはありません。ただし、売却までの間に仮差押えが効力を失ったときは、買受人がその賃借権を引き受ける可能性もありえます。
「○○が占有している。同人の占有(又は賃借権)は滞納処分による差押えに後れる」
本件競売手続の差押え前に、租税官庁による滞納処分の差押えがあり、それに後れる占有者がいることを意味します。この占有者が賃借権にもとづいて占有していたとしても、滞納処分による差押えに後れているので、賃借権は売却によって消滅し、買受人がその負担を引き受けることにはなりません。ただし、売却までに滞納処分が効力を失ったときは、買受人がその賃借権を引き受ける可能性もありえます。
「○○が占有している。同人の賃借権は、差押え(仮差押え・滞納処分による差押え)後に期限が経過している」
このケースの場合、仮差押え又は滞納処分による差押えは、本競売手続の差押え前のものです。差押え・仮差押え・滞納処分による差押え後に期限が経過した短期賃借権は、それ以降の更新は買受人に対して主張することができないと考えられています。したがって、買受人がその負担を引き受けることにはなりません。ただし、売却までに仮差押え又は滞納処分による差押えが効力を失い、かつ賃借権の期限経過が差押え前であるときには、賃借期間の更新を買受人に主張できることになり、買受人がその短期賃借権を負担として引き受けることもありえます。(注)平成15年の民法改正により短期賃貸借保護制度は廃止されましたが、法の経過措置により、なお短期賃借権の適用の余地がある占有を前提としたものです。
「○○が占有している。同人の賃借権は、平成○年○月○日の経過により、差押え後に期限が経過するものである」
物件明細書作成時において、短期賃借権の期限経過が間近に迫っている場合です。通常、売却までに期限が経過すると、その賃借権を買受人が負担することはありません。平成15年の民法改正により短期賃貸借保護制度は廃止されましたが、法の経過措置により、なお短期賃借権の適用の余地がある占有を前提としたものです。
「○○が占有している。同人の賃借権は、所有権移転の仮登記担保権に後れている。(ただし、代金納付日から6か月間明け渡しが猶予される)」
所有権移転仮登記が担保仮登記である場合、その権利は売却により消滅し、これに後れる賃借権も買受人に対抗できません。仮登記担保権に後れる賃借権には短期賃貸借保護制度の適用はありません。ただし、売却までに仮登記担保権が効力を失ったときは、その賃借権を買受人に主張できる場合があり、買受人がその賃借権を負担することもありえます。
「○○が占有している。同人の賃借権は、一時使用を目的とするものと認められる」
一時使用目的の建物の賃貸借には、借地借家法が適用されません。登記以外に買受人への対抗要件はありません。賃借権登記もなく、一時使用目的としているため、買受人が負担として引き受ける賃借権には該当しないということです。
「○○が占有している。同人の賃借権は、対抗要件を有していない」
借地人が、土地賃借権を土地の買受人に主張するには、通常であれば次のような対抗要件を備えておく必要があります。 ① 建物所有を目的としない賃借権であるときは、その登記。 ② 建物所有を目的とする賃借権であるときは、その登記。又は登記されている建物を借地人が所有していること。 この記載は、借地人が上記のような対抗要件を備えていないために、買受人が土地賃借権の負担を引き受けなくてもよいことを意味します。
「駐車場として使用されている。使用者(ら)の占有権原は買受人に対抗できない」
売却対象土地が駐車場として使用されており、かつ使用者(ら)の占有権原を買受人が引き受ける必要がないということです。
「転借人(又は転使用借人)○○が占有している」
もとの賃借権自体が、買受人が負担として引き受けることにならないケースで、その賃借権者(転貸人)から、更に賃借している人(転借人)や無償で借りている人(転使用借人)が占有者です。買受人は転貸借(転使用貸借)による負担も引き受けることにはなりません。通常は、この記載に引き続き、もとの賃借権が買受人の負担とはならないと判断した理由も併記してます。
「売却対象外建物(家屋番号○番)が本件土地上に存在する」
土地上に売却対象外建物がありますが、借地権や法定地上権などの買受人に対抗できる敷地利用権は認められないという意味です。買受人が土地使用の承諾をしない限り、建物所有者に建物の収去(取壊し)を求めることができます。それに応じないときは、建物収去土地明け渡しの訴訟を提起し、判決等を得て、強制執行をする方法があります。なお土地に対する引渡命令にもとづいて、建物収去の執行をすることはできません。 通常は、敷地利用権が買受人の負担とはならないと判断した理由を簡潔に併記してます。
「占有者は不明である。占有者の占有権原は買受人に対抗できない」
調査をしても、占有者が、所有者や実行抵当権の債務者か、あるいは第三者なのかが分からず、占有権原も不明です。が、以下の理由により、買受人の負担として引き受ける権利とは認められない場合の記載です。第三者が賃借権により占有していても、その開始時期が差押えの後であることが判明していたり、あるいは正常な賃借権とは認められないときは、その占有権原は買受人の引き受ける権利とはなりません。また、所有者や実行抵当権の債務者の占有であれば、当然に買受人の引き受ける権利とはなりません。
「氏名不詳者が占有している。同人の占有は差押えに後れる」
所有者や実行抵当権の債務者以外の第三者が占有しているが、氏名等が特定できず、占有権原も判然としないが、その占有の開始時期が差押えの後であることが判明しているケースです。買受人が負担として引き受ける権利とはなりません。
「氏名不詳者が占有している。同人の占有権原は買受人に対抗できない」
所有者や実行抵当権の債務者以外の第三者が占有しているが、氏名等が特定できず、占有権原も判然としないが、その占有権原が正常な賃借権とは認められない場合です。買受人が負担として引き受ける権利とはなりません。
「○○が占有している。同人が留置権を主張するが認められない」
売却対象物件に対して留置権を主張して占有する者がいますが、法律上、留置権の発生は認められないと認定した場合です。占有の形態と留置権の主張を簡潔に併記している場合もあります。
「○○が占有している。同人は外交特権を有している可能性がある」
ウィーン条約により、外国の外交官等には外交特権が認められ、日本国の裁判権が及ばない可能性があるため、引渡命令が発令されない可能性があります。
⑤その他買受けの参考となる事項
この欄には、物件明細書の1~4欄(物件の表示、買受人が負担する権利、法定地上権、占有状況)に記載される事項以外で、買受けを検討する上で極めて重要な情報が記載されています。具体的には、
○地代や管理費などの滞納状況
○隣地との境界に関する争い
○土地の明け渡しや建物の収去に関する訴訟の有無
など、落札後に多額の金銭負担や法的なトラブルに巻き込まれる可能性のある、決して見過ごしてはならない情報が記載されています。この欄に書かれていることは見落とし厳禁です。内容を熟読し、完全に理解した上で入札をご検討ください。
「隣地(地番○番)との境界が不明確である」
境界確定のためには、買受け後、隣地所有者と協議が必要です。話し合いでまとまらなければ、境界確定や所有権の範囲確認の訴訟・調停などの可能性も生じます。測量等の結果によっては、土地の地積が物件目録記載のものよりも少なくなることもありえます。 この点については、売却基準価額を定める際に考慮されています。が、不明確の程度がそれほど大きくない場合は、物件明細書に記載をせず、売却基準価額においても特段の考慮をしないこともあります。
「隣地(地番○番)との間で境界確定の訴訟(当庁令和○年(ワ)第○号)が提起されている」 隣地との境界について、本件所有者と隣地所有者との間で訴訟が提起されている旨の記載です。訴訟の進行状況は、管轄裁判所の担当部に確認する必要があります。 買受人が代金を納付し、所有権移転を受けた時点でも訴訟が係属中のときは、民事訴訟法の規定により本件所有者に替わり原告や被告の地位を引き継ぐことがあります。
「地籍図上筆界未定である」
地籍図とは、国土調査法による地籍調査の成果図で、土地の境界やその位置関係などを記したものです。1筆ごとの範囲や面積を測量した地積測量図と区別するため、14条地図とも呼ばれています。現在も整備が進められていますが、大都市圏では2割程度しか整備されていません。地籍調査の実施前から、当事者間で境界について争いがあるものや境界標示杭の設置について土地所有者間の協議が不調な場合、その他土地所有者等の確認がない場合には、筆界未定として扱われます。執行裁判所の実務上は公図混乱地域もしくは公図のない地域を筆界未定としていることが多いようです。このような場合でも争いの範囲が比較的狭い場合は、筆界未定を前提として売却基準価額を定めて売却する場合があります。境界不明確の場合と同様の負担がありえます。
「本件土地(の一部)は通路(私道)として利用されている」
売却対象土地の全部又は一部が、不特定多数の人により通路(私道)として利用されているという意味です。建築基準法上の道路ではありません。建築基準法上の道路と認められる場合は、物件目録に「(現況)公衆用道路」などと記載されます。 複数の人達により通路(私道)として利用されている状況があると、これらの通路等を廃止するのは困難を伴います。
「売却対象外の土地(地番○番)を通行のため(無償で)利用している」
売却対象土地が無道路地などで、通行のために売却対象外の土地を利用しています。土地を使用していく上で、売却対象外土地に依存しなければならず、買受人は通行地の所有者と協議するなど利用関係を維持する必要があります。公道に至るための他の土地の囲(い)繞(によう)地(ち))通行権が認められる場合に限らず、通行の事実がある場合一般の記載です。
「本件土地(の一部)は、売却対象外の土地(地番○番)への通行のため(無償で)利用されている」
売却対象土地を特定の人が通行しているという意味です。奥にある無道路地に居宅を有する人が、公道との出入りのため通行している場合、法律上、囲繞地(いにょうち)通行権が認められます。それ以外の場合でも、通行を制約することは困難を伴う可能性があります。
「売却基準価額は、温泉権を含めて定められている」
温泉権を不動産の従たる権利と認めたので、売却基準価額を定めるときに温泉権の価値も考慮したという意味です。温泉権は上記不動産と一体として競売の対象です。温泉権と不動産を共に買受人が取得することが前提の売却基準価額ですが、その権利の帰属(権利が誰にあるか)が争われた場合には、最終的には訴訟によりその権利関係が決まります。
「土地区画整理で清算金の徴収が予定されている」
買受人は、土地区画整理組合などの区画整理の事業主体から清算金の請求を受ける可能性があります。清算金は換地処分の公告があった日の翌日に確定します。
「土地改良事業で清算金(又は賦課金)の徴収が予定されている」 買受人は、土地改良組合などの土地改良の事業主体から清算金(又は賦課金)の請求を受ける可能性があります。清算金は換地処分の公告があった日の翌日に確定します。
「○○事業で賦課金の滞納あり」
土地区画整理法、土地改良法などの事業の際に、事業主体は必要経費に充てるため、対象土地の所有者から賦課金の徴収をすることがあります。所有者が賦課金の滞納をしていると、買受人も承継人として支払義務を負うことになり、事業主体から所有者が滞納した賦課金の徴収を受ける可能性があります。
「マンション建替事業で清算金の徴収が予定されている」 マンション建替事業では、再建マンションの区分所有権(敷地利用権)額と、建替前の区分所有権(敷地利用権)額の差額を、清算金として所有者から徴収・交付することになっています。この権利義務は、清算未了のまま所有権の移転があると買受人が承継します。その清算金の徴収が予定されている場合の記載です。
「本件土地上に現存しない建物(家屋番号○番)の登記が存在する」
売却対象の土地を所在地番とする建物の登記がありますが、その建物は現存しないという意味です。現存しない建物でも登記が残っていると、旧建物の滅失登記をしないと新しく建築する建物の表示登記の申請ができないなどの影響があります。
「管理費等の滞納あり」
マンションなど区分所有建物では、管理費や修繕積立金、駐車場代、管理組合が立て替えている地代などの滞納があると、区分所有法の規定により、買受人がその滞納金の請求を管理組合等から受けることがあります。現況調査報告書や評価書に記載されている滞納額は、調査時のもので、時間の経過により増減します。なお滞納管理費等は、評価時に考慮されていることも多いです。区分所有マンション入札者が、必ずチェックすべき事項です。
「売却基準価額は、滞納管理費等の額を考慮して定められている」
滞納管理費等の意味は、前記のとおりです。滞納管理費等が売却基準価額に反映される場合、裁判所によっては評価の過程では考慮せず、裁判所が物件明細上において滞納管理費等などを評価額から控除して売却基準価額を定めていることがあります。この場合は、売却基準価額と評価額が異なるため、このような記載がなされます。
「本件建物と売却対象外建物(家屋番号○番)の隔壁が取り除かれ、両建物が一体として利用されている」
買受人は、売却対象外建物の所有者と、建物の利用や登記について、協議あるいは訴訟等が必要となることが予想されます。
「本件建物のために、その敷地(地番○番(の一部)、所有者○○)につき使用借権が存する。買受人は、敷地利用権の設定を要する」
建物についての敷地利用権が、土地を無償で借りる使用借権です。敷地利用権を買受人が引き継ぐことはできず、建物を維持するには、地主との間で新たな賃貸借契約などの敷地利用権の設定をする必要があります。賃借権と異なり、地主の承諾に代わる裁判で利用権を取得する方法はありません。敷地利用権の設定を受けられないときは建物の収去(取壊し)を求められる場合もありますので注意が必要です。借地権付き建物は、敷地利用権設定のために、ひと手間必要ですが、そのため売却基準価額も低めですし、入札者も少なめです。一方、地主の承諾を得る法制度は整備されています。収益物件をお考えならば、狙い目かもしれません。
「本件建物のために、その敷地(地番○番、地積○平方メートル(の一部)、所有者○○)につき借地権(賃借権)が存する。買受人は、地主の承諾又は裁判等を要する」
敷地利用権が、地代を払って借りている土地賃借権です。対象土地、土地所有者(地主)名が併記されます。契約内容の詳細は記載されません。原則として、借地契約を買受人が引き継ぐには、地主の承諾が必要です。 地主の承諾には、実務上は、名義書換料などの金銭を支払うケースが多くみうけられます。大都市圏では借地権価格(更地価格の6割~7割)5~10%が相場ともいわれますが、地代等や従前借地契約の内容等によっても違いがあり、いちがいにはいえません。下記の裁判、調停になった場合は10%程度の承諾料で決着することが多いようです。 地主が承諾しないときは、代金納付から2か月以内に借地の所在地の管轄地方裁判所に対し、借地借家法20条の「土地賃借権譲渡許可」の申立をして、「承諾に代わる譲渡許可」を裁判で取得する方法もあります。あるいは、借地の所在地の管轄簡易裁判所に対して、地主の承諾を求める宅地建物調停を申立る方法もあります。前記の期間内に調停の申立をしておけば、仮に調停が不成立でも、その日から2週間以内に「土地賃借権譲渡許可」の申立をすることで適法な期間内に申立があったものとみなされます。
「本件区分所有建物を含む1棟の建物のために、その敷地(地番○番、地積○平方メートル(の一部)、所有者○○(、借地人○○))につき(転)借地権(賃借権・地上権)が存する。ただし、本件区分所有建物につき、上記(転)借地権(賃借権・地上権)は他の区分所有者と準共有である」
物件がマンション等の場合において、敷地利用権が所有権の共有ではなく、借地権(地上権、賃借権)や転借地権の共有(準共有)であることを意味します。一般的な所有権の共有マンションと異なり、敷地利用権の設定について、区分所有者と地主との間に借地権設定契約等が存在します。借地権が賃借権の場合、それを引き継ぐためには、原則として地主の承諾が必要です。その際、金銭の支払が必要となる場合もあります。地主等が承諾しないときには、前記同様に承諾に代わる譲渡許可の裁判が必要となります。また管理費等のほかに地代の支払も必要となります。
「本件建物のために、その敷地(地番○番、地積○平方メートル(の一部)、所有者○○)につき借地権(賃借権)が存する。上記借地権は土地の令和○年○月○日付け抵当権設定登記に後れる」
本件建物の敷地利用権である借地権は、その土地の抵当権の登記より後れるため、もし敷地が競売になると、敷地の買受人から建物の収去(取壊し)を求められることがある不安定な権利であることを意味します。
「上記借地権につき争いあり」
「上記借地権につき、地主から賃貸借契約解除の意思表示あり」
「上記借地に関連して、建物収去・土地明渡訴訟が係属中(○○地方裁判所令和○年(ワ)第○号)である」
「本件建物の敷地に関連して、建物収去・土地明渡訴訟における原告勝訴判決が確定している」
売却対象建物の借地権について、地主等と争いがあり、その争いがどの段階のものかが記載されています。ただし、売却手続が進行する中で、更に次の段階に争いが進んでいる場合もあります。
これらの争いがあるとき、地主との交渉は困難が予想されます。また買受け後に「土地賃借権譲渡許可」の裁判の申立をしても、認められない可能性もあります。特に建物収去土地明渡訴訟の原告勝訴判決が確定している場合は、建物の買受人は判決の効力を承継しますので、建物を収去(取壊し)して地主に土地を明け渡す法的義務も引き継ぎます。いつでも強制執行を受ける可能性がある立場となるのです。ただ、このような建物でも、現に存在する限り、地主との交渉の余地はあるものとして、売却の対象にはなります。買受けを検討するときは、十分に注意してください。
「本件建物のために、その敷地(地番○番、地積○平方メートル(の一部)、所有者○○)につき借地権(賃借権)が存する。本件建物所有者と借地名義人は異なる」
裁判所書記官としては、一応借地権があるものと判断しています。ただし名義が異なるため、争いになる可能性があります。
「本件建物につき、その敷地利用権はない」
売却対象が建物のみで、敷地利用権がない場合です。買受人は地主との間で新たな借地権を設定しない限り、地主から建物の収去(取壊し)を求められることになります。買受けを検討するときは、十分に注意してください。
「売却基準価額は敷地利用権が不明であることを考慮して定められている」
売却対象が建物のみで、敷地利用権があるかないかが不明であり、そのことを考慮して売却基準価額を定めたという意味です。敷地利用権がないときは前記のリスクがありますので、買受けを検討するときは、十分に注意してください。
「地代の滞納あり」
地代の滞納は、借地契約の解除事由となるので、その注意のための記載です。借地権価額の高い大都市圏では、建物収去・土地明渡訴訟を提訴し、明渡強制執行をしたほうが地主に金銭的メリットがある場合も多いため、買受けを検討するときは、十分に注意してください。滞納額は時間の経過により、増加又は減少します。
「地代代払の許可あり」
地代の滞納はあるが、債権者が執行裁判所に地代代払許可を申請し認められたことを意味します。この決定により、債権者が地代を代わって支払うことができ、現実に支払っていれば、地代滞納を理由とする借地契約解除の心配はなくなります。 しかし、地代代払許可は、債権者の代払を強制するものではありません。債権者が支払わなかったり、支払が不完全な場合は借地契約を解除される可能性もあります。代払状況は債権者や地主に確認しないと分かりません。また地代不払以外の理由による借地契約解除の可能性も否定できません。地主が地代代払を無視し、借地契約解除の手続を進めることもありえます。その場合は後日の裁判で借地契約解除の有効性を争うしかありません。
※その他の事項
「買戻特約登記は、本執行手続では抹消しない」 最先順位の買戻特約登記があり、競売手続ではその登記を抹消することができないケースです。買戻特約登記を抹消するには、登記名義人と共同で登記申請することになりますので(買戻特約の存続期間が満了し、権利が消滅していても登記は自動的に消滅しないため)、買受人から買戻権者に協力を求めることになります。買戻特約は、公団などが売主になった場合に、一定期間、転売を防ぐために付けられていることが多いです。
「ただし、買戻権者から、買戻権の行使をせず、買戻特約登記の抹消登記手続について買受人に協力する旨の申出がある」
買戻権者から、買戻権を行使しない(又は行使しなかった)旨と買戻特約登記の抹消登記手続について買受人に協力する旨の申出があることが、事件記録上あらわれているときは、このように記載されます。
「質権の登記は、本執行手続では抹消しない」
存続期間が満了しており、買受人が引き受ける権利とは認められません。が、登記は最先順位のため、競売手続では登記を抹消できません。登記抹消には、登記名義人と共同で申請するか、訴訟によるしかありません。
「処分禁止の仮処分の登記がある」
競売による売却処分と対抗関係に立つ仮処分の登記は、競売申立の登記より後順位であれば、代金納付時に抹消されますが、買受人は抹消された仮処分の債権者から所有権の帰属をめぐって訴えられる可能性は否定できません。この記載があるときは、上記の趣旨を踏まえ、弁護士に相談するなど十分に調査をして慎重に判断してください。
「執行官保管の仮処分(○○地方裁判所令和○年(ヨ)第○○号)がある」
所有者が競売不動産の占有者に対する明渡請求権を保全(確保)するため、執行官保管の仮処分がなされている場合です。保全債権者は所有者であり、買受人が保全債権者の地位を引き継ぐことになります。所有者と占有者との間で争いのある場合なので、よく調査をして判断したほうがよいでしょう。 執行官保管の仮処分(占有移転禁止の仮処分)とは、建物明渡請求訴訟などを提訴するにあたり、訴訟準備中から判決、執行までの間に占有者が代わることを防ぐために、建物の占有権を執行官が保全する処分です。現実に建物内の荷物等を搬出し空室で保管する場合と、名目上の占有者を執行官にして債務者にそのまま使用させる場合があります。実務上、建物の占有移転移転禁止の仮処分を実行した結果が、執行官保管の仮処分となります。なお仮処分とは保全のための暫定的な処分の意味です。
「売却のための保全処分(○○地方裁判所令和○年(ヲ)第○○号)として○○命令が発令されている」
民事執行法上の保全処分として、執行裁判所が、所有者等に対し、目的不動産に関する一定の行為を命令又は禁止する等の命令を発していることを示しています。 なお占有移転禁止命令の場合、物件の買受人は、その保全処分の相手方に対する引渡命令が発せられたときは、現在の不動産の占有者(その処分を知っている占有者、まったく知らないで相手方の占有を承継した者いずれも)に対する承継執行文の付与を受けることにより、その占有者に対し不動産の引渡しの強制執行をすることができます。
「売却のための保全処分として占有移転禁止命令が発令されている。上記命令は、平成15年改正前の民事執行法が適用される事件である。」 占有移転禁止命令の場合で、かつ上記の記載がある物件について、代金納付後も同様の保全措置を必要とするケースでは、最高価買受申出人又は買受人は、民事執行法77条にもとづき別途保全処分の申立をする必要があります。
「○○(地役権等の目的、例えば「電柱設置」等)のための地役権(又は地上権)設定登記がある」
最先順位ではないため、代金納付の際に抹消される地役権や地上権の登記があるが、公共目的などで、実質上は買受人の負担となる可能性が高いケースです。なお買受人が引き受けることとなる地役権や地上権は、「買受人が負担することとなる他人の権利」欄に記載されます。
「地番○番を承役地とする地役権設定登記がある」
本件土地を要役地、売却対象外の土地を承役地とする地役権設定登記があるという意味です。買受人は要役地を取得するため、利益であるといえますが、本件土地を利用する上で他の土地と関係を継続しなければならないことにもなります。
「本件建物(土地)は共有持分についての売却であり、買受人は、当該物件を当然に使用収益できるとは限らない」
建物(土地)の共有持分を競売により取得しても、建物(土地)の完全な支配権を得ることはできません。建物(土地)の占有者の排除やその利用(共有者の誰に使用させるか又は誰に賃貸するか等)については、他の共有者と協議しなければなりません。 また、占有者が他の共有者や共有者の一部から使用を許されている者の場合には、引渡命令が発令されない可能性があります。その意味で、買受人は当然に使用収益できるとは限らないということになります。
「・・審尋(調査)の結果・・」
執行裁判所が関係人から事情等を聴取する審尋をした結果、又は調査の結果を踏まえて売却条件が定められているということです。
「占有者○○が改装費(又は修繕費・造作費)を支出した旨主張している。売却基準価額は上記改装費(又は修繕費等)を考慮して定められている」
占有者が、対象物件について、修繕費などの必要費又は改装費などの有益費を支出したと主張していることを意味します。占有者が必要費や有益費を支出したときは、占有物返還の際に、一定の要件の下に所有者に対し償還を請求できます。また造作も一定の要件の下に買取りを請求できます。買受人はこれらの請求を受ける可能性があります。 なお、必要に応じて売却基準価額を定めるにあたり考慮することもあります。後段はその場合の記載です。
「本件土地の現況は農地ではない旨の農業委員会の回答がある」
登記地目は田・畑・牧場ですが、農業委員会から、現況は農地ではない旨の回答があったことを意味します。 農地法の制限を受けない通常の物件として売却されますが、登記地目は現状のまま買受人に所有権移転登記がなされます。必要があれば、買受人が地目変更登記申請をしなければなりません。その際、原則として、農地に該当しない旨の都道府県知事か農業委員会の証明書等、もしくは転用許可があったことの証明書等が必要です。手続は、登記については法務局、証明書については都道府県又は農業委員会が管轄です。
「本件建物につき、令和○年(ケ)第○号担保不動産収益執行事件(又は令和○年(ヌ)第○号強制管理事件)が係属している」
物件明細書作成後に、担保不動産収益執行事件又は強制管理事件の管理人が賃貸借契約を結んだ場合、その賃借人にも明渡猶予が認められることを注意喚起する記載です。
5章 現況調査報告書
現況調査報告書は、競売物件の形状、占有状況、その他状況について、裁判所の執行官が調査しまとめた報告書です。買受希望者が自分で自由に確認することができない競売物件にとって、内部の状況、誰がどのように使用しているか、といった貴重な情報源となります。報告書には、書面調査、電話などによる関係者への聞き取り、物件の現地調査、占有者などから聴取した内容などが記載されています。物件明細書も、この現況調査報告書を参考に作成されますが、最終的な裁判所の認定事項は物件明細書に記載されますので、必ず両方を確認するようにしてください。
現況調査報告書の表紙では、提出日に注目! 調査日は提出日より以前のことです。2ページ目ある物件目録は、物件明細書や評価書の物件目録と共通です。物件を特定するための地番や家屋番号などが掲載されています。
次ページ以降には、「土地や建物の概況」が記載されています。住居表示(町名表示)がない場合は、地番などで所在地を調べます。 「目的外土地(建物)の概況」は、該当する物件がある場合に添附されます。 目的外物件は競売の対象外なので、権利関係に要注意です。


「占有者及び占有権原」の書類は、競売物件に所有者以外の占有者がいる場合に添付される書類です。占有者が単独か、2人か、多人数かによって様式が分かれますが、記載される項目はほぼ共通しています。「関係人の陳述等」は、特に重要です。ここには、占有の事実や、法定地上権などの権利関係を判断するために重要な情報が記載されています。
この二つの書類からは、占有開始時期や占有に至った経緯(例:賃貸借契約、使用貸借契約、無権占有など)、占有権原に関する主張(例:賃借権の種類、契約期間、賃料の支払い状況、法定地上権の成立要件に関する主張など)、占有者以外の関係者(前所有者、債務者など)の陳述や現在の物件の使用状況(建物の種類、用途、占有範囲)などが記載されていることがあります。引渡命令の対象となる占有者であるかどうかや、明渡しの交渉の可能性や進め方、占有者との間で紛争が生じる可能性などを推測する手がかりになります


「執行官の意見」は、権利関係が複雑な場合は記載内容が多くなりがちです。「調査の経過」は文字通り現況調査の経過を時系列で記載したものですが、読み解くと債務者や占有者が執行官の調査の求めに応じたかどうか、協力的であるかや、室内に立ち入る際に解錠技術者(鍵)を使ったかどうかなどがわかります。落札後の交渉のことを考えると、ここに記載されている内容は重要です。ほかにも現況調査報告書には、調査時に撮影した写真や各種図面などが添附されています。


6章 評価書
競売価格を知るための重要書類
評価書は、裁判所が任命した評価人(通常は不動産鑑定士)が、競売物件の適正な売却基準価額を決定するために作成する、不動産の評価額とその算出過程を記載した書面です。複数回にわたり売却が行われている物件では、評価額を変更した「補充評価書」や「再評価書」が閲覧資料に添付されていることがありますので、必ずご確認ください。
通常の不動産取引では重要事項説明書に記載される公法上の規制に関する情報は、評価書にのみ記載されているため、注意が必要です。専門用語が難しい場合は、不動産関連の書籍や巻末の用語集などを参考に読み解きましょう。
評価額
評価の結論として記載される金額で、これを基に執行裁判所が売却基準価額を決定します。評価額と売却基準価額が異なる場合がありますが、これは評価額算出の過程における複数の要因の一方のみが採用されたり、補充書面で評価額が修正されたり、裁判所が買受人の引受債務(敷金や滞納管理費等)を考慮して調整される場合などが考えられます。補充書面は評価書の前についていることが多いです。落札価格算出のための、かなり参考になる数字もあります。それがどこなのか? 探しながら読み込んでみてください。
評価の条件
競売物件の特殊性を考慮した評価の前提条件が記載されています。
目的物件
不動産の現況が物件目録と異なる場合は、現況欄に記載されます。物件によっては特記事項が記載されることもあります。
目的物件の位置・環境等
物件の所在地、交通アクセス、周辺環境の概要、各物件ごとの詳細な説明、利用状況、供給処理施設、主な公法上の規制などが簡潔に記載されています。建築制限や都市計画法による制限などはここで確認します。
評価額算出の過程
評価額がどのような方法で算出されたのか、その過程が文章と計算式で示されています。競売市場における価格修正率(減価率)は、地域や評価人によってばらつきがあるため、計算式はあくまで参考程度に留めておくと良いかもしれません。
参考価格資料
評価を行う際に参考とした、地価公示価格などの公的な価格情報が記載されています。
公法上の規制等の説明
競売物件の3点セットに添付されている評価書には、公法上の規制に関する事項が記載されています。これは、一般の不動産取引における重要事項説明書に記載される内容とほぼ同様とお考えください。これらの情報は、主に市区町村などの役所調査によって調べることができます。
建築基準法関係
特に重要なのは、建築基準法に関連する規制です。
建築基準法上の道路
都市計画区域内では、原則として、建築基準法上の道路に敷地が接していなければ建物を建築することができません。建築基準法上の道路には、以下の種類があります。
○42条1項道路 建築基準法上のもっとも原則的な道路であり、次の種類の幅員4m以上(特定行政庁が前面道路を6m以上と指定した区域においては6m以上)の道路です。なお幅員は、一般に路面と側溝の幅の合計をいい、法(のり)敷(じき)(道路と敷地の境界の傾斜部分)は算入しません。
①道路法の道路(42 条1項1号) 一般の国道(自動車専用道路を除く)、都道府県道、市町村道、区道。いわゆる公道です。
②都市計画法等による道路(同項2号) 都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法等で作られた道路で、工事完了後は道路法の道路となるのが一般的です。
③ 既存道路(同項3号) 建築基準法の道路規定が施行される際、既に存在していた幅員4m以上の道路。私道を含みます。幅員4m未満の場合は、後述の42条2項道路か否かが問題となります。
④事業執行予定の道路(同項4号) 都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法等の事業計画のある道路で、2年以内に事業が執行される予定として特定行政庁が指定したもの。まだ道路形態がない場合でも建築基準法上の道路として取り扱われます。
⑤位置指定道路(同項5号) 広い土地を分筆して小さな敷地にした際などに、併行して新たに作られた私道で、特定行政庁から位置の指定を受けたものをいいます。私道が道路位置指定等で建築基準法上の道路になった場合、その私道の変更や廃止は禁止したり制限されて、建築物を建てることはできないとされています。
○42条2項道路 幅員4m未満で特定行政庁が指定した道路をいいます。ただし、道路の中心線より2m後退(セットバック)した線が道路境界とされ、その線を超えて建築をすることはできません(図1参照)。また、道路の対岸が崖や川などの場合は、 道路の対岸線から4m後退した線を超えて建築をすることはできません(図2参照)。
○43条3項道路 土地の状態により道路幅員4mが確保できず、やむを得ない場合に、特定行政庁が指定した道路です。道の中心線から2m未満1.35m以上の範囲、又は片側が川や崖などの場合はその境界線から4m未満2.7m以上の範囲で指定されます。この場合、その範囲の条件を満たすセットバックが必要となります。
接道義務 建築基準法43条1項により、都市計画区域内では、敷地が建築基準法上の道路に原則として2m以上接面していなければ、建物の建築はできません。(図3参照)。なお例外として、この原則を緩和している場合(43条1項ただし書。大都市圏では珍しくない)と、逆に自治体の条例により要件を付加している場合があります。
建ぺい率
建築面積の敷地面積に対する割合を示すもので、以下の計算式で表されます。
建ぺい率[%]=敷地面積[㎡]建物面積[㎡]×100
原則として、建物はこの建ぺい率を超えて建築することはできません。例えば、建ぺい率が60%で敷地面積が200㎡の場合、建築面積が120㎡を超える建物は建てられません。建ぺい率の基本値は都市計画で定められますが、用途地域や建物の構造によって緩和措置が適用されることがあります。評価書に記載されている建ぺい率は、一般的に基本値です。
容積率
延べ床面積の敷地面積に対する割合を示すもので、以下の計算式で表されます。
容積率[%]=敷地面積[㎡]延べ床面積[㎡]×100
原則として、建物はこの容積率を超えて建築することはできません。例えば、容積率が200%の場合、敷地面積の2倍を超える延べ床面積の建物は建てられません。容積率の基本値も都市計画で定められますが、前面道路の幅員によって制限を受けたり、特定の床面積が延べ床面積に算入されないなどの緩和措置があります。評価書に記載されている容積率は、一般的に基本値です。
用途地域
地域ごとに建築可能な建物の用途や規模を限定することで、良好な都市環境を維持するために定められています。市街化区域内で指定され、市街化調整区域では原則として定められません。主な用途地域の種類と概要は以下の通りです。用途地域ごとに建築可能な建物の種類や詳細な規制については、別途資料をご確認ください。
住居系用途地域: 住宅地の環境保護を目的とした地域で、低層住宅専用地域、中高層住宅専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域などがあります。
商業系用途地域: 商業活動の利便性向上を目的とした地域で、近隣商業地域、商業地域などがあります。
工業系用途地域: 工業の利便性向上を目的とした地域で、準工業地域、工業地域、工業専用地域などがあります。
その他: 上記以外にも、特別用途地区や高度地区など、特定の目的のために定められる地域があります。
防火地域・準防火地域
火災発生時における延焼を防ぐことを目的として指定される地域です。これらの地域内では、建物の構造が制限されたり、一定の防火性能を持つ構造や設備の設置が義務付けられます。
既存不適格建築物
建築当時は適法であった建物や敷地が、その後の都市計画変更や建築基準法の改正などにより、現在の基準に適合しなくなったものです。既存不適格建築物は、増改築を行う際に制限を受けることがあります(建築基準法86条の7)。
違反建築物
建築基準法や関連法規、条例、またはこれらの法律に基づく命令や許可条件に違反して建築・増改築された建物です。用途地域の変更によって違法状態となる場合もあります。違反建築物やその敷地の所有者に対しては、特定行政庁から建物の除却、移転、増改築、修繕、使用禁止、使用制限など、是正のための措置命令が出されることがあります(建築基準法9条)。
都市計画法関係
市街化調整区域
市街化を抑制すべき区域として定められており(都市計画法7条3項)、農業や緑地保全が優先されます。原則として、農林水産業用の建築物や一定規模以上の計画的な開発を除き、建築や開発行為は許可されません(同法29条、34条、43条)。ただし、条例や既存宅地に関する緩和措置がある場合もあります。
都市計画施設
都市計画において道路、公園、下水道などが決定された区域内では、建築物を建築する際に都道府県知事の許可が必要となります(都市計画法53条1項)。許可の申請があった場合でも、原則として、階数が2階以下で地階がなく、主要構造部が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造などで、容易に移転または除去できると認められる場合に限って許可されます(同法54条)。
宅地造成等規制法関係
宅地造成工事規制区域
宅地造成工事に伴う崖崩れや土砂の流出の危険性が高い区域として、都道府県知事によって指定されます(宅地造成等規制法3条1項)。この区域内で宅地造成の工事を行う場合には、事前に都道府県知事の許可を受けるなどの規制があります(同法8条、9条)。
文化財保護法関係
周知の埋蔵文化財包蔵地に該当
古墳などの埋蔵文化財が存在することが知られている土地で、土木工事等を行う際には、工事着手の60日前までに文化庁長官への届出が必要です。埋蔵文化財の記録作成のための発掘調査などが指示されることがあります(文化財保護法93条、92条1項)。
農業振興地域の整備に関する法律関係
農業振興地域の農用地区域内(農振農用地)
都道府県知事が農業振興地域として指定し(農業振興地域の整備に関する法律6条)、市町村がその地域について農用地として利用すべき区域(農用地区域)と定めた土地です。この区域内の土地には、農業上の用途区分(農用地利用計画)が定められています(同法8条)。農林水産大臣や都道府県知事は、これらの土地が農用地利用計画で定められた用途以外に利用されないように努める必要があり(同法17条)、宅地などへの転用は厳しく制限されています。農振農用地区域内の農地や採草放牧地の転用、または転用目的での権利移動の許可(農地法4条、5条)は非常に困難です。
生産緑地法関係
生産緑地地区に指定
生産緑地地区に指定された地域内では、建築物の新築や宅地造成などは、一定の建築物で市区町村長の許可を受けたもの以外は原則としてできません(生産緑地法8条)。違反した場合には、原状回復が命じられることがあります(同法9条)。
森林法関係
保安林
水源涵養、土砂崩壊防止などの特定の目的のために指定された森林です。保安林内での立木の伐採や開墾などの土地の形質変更には、都道府県知事の許可が必要です(森林法34条)。
自然公園法関係
自然公園法上の一種から第三種の特別地域・普通地域に指定
国立公園や国定公園などの自然公園内で、その保護の目的に応じて特別地域や普通地域が指定されます。これらの地域内では、建築物等の築造に関して規制が加えられることがあります。
7章 引渡命令の概要
引渡命令とは
不動産競売の買受人が、簡易かつ迅速に不動産の占有を確保するための裁判制度です。代金納付後に買受人の申立てにより、執行裁判所が債務者、所有者、占有者に対し、競売不動産を買受人に引き渡すよう命じます。通常の訴訟と比較して迅速かつ簡便ですが、占有確保までに一定の時間を要し、執行には費用がかかります。
引渡命令の対象
原則として、以下の者が引渡命令の対象となります。
○債務者・所有者
○物件明細書の「買受人が負担することとなる他人の権利」欄に記載されていない占有者(多くは「物件の占有状況等に関する特記事項」欄に記載)。
ただし、「物件の占有状況等に関する特記事項」欄に記載のある占有者でも、以下に該当する場合は引渡命令が発令されない可能性があります。注意が必要です。
①買受人が共有持分のみを取得した場合で、他の共有者またはその一部から使用を許されている占有者
②実行抵当権以外の抵当権(競売申立てをしていない抵当権)の債務者(所有者を除く)が、最先の賃借権に基づいて占有している場合
③占有者が外国の外交官など特権を有する者
④引渡命令に関する平成8年の民事執行法改正前の旧法が適用される事件の占有者で、差押え前から適法な権原に基づき占有していると認められる場合(例:期限切れの短期賃借権者、使用借権者)。これは、平成8年8月31日以前に競売が申し立てられた事件(事件番号の年度が平成7年以前または平成8年の一部)に該当します。
引渡命令の対象外の占有者
原則として、物件明細書の「買受人が負担することとなる他人の権利」欄に記載のある占有者は引渡命令の対象外です。ただし、以下の場合は例外的に引渡命令の対象となる可能性があります。
○買受人の代金納付後、引渡命令の申立てが可能な期間内に期限が到来した短期賃借権者(期限到来後)
○物件明細書の同欄に「賃借権(不明)」と記載があり、引渡命令の審理で占有者が賃借権の存在を証明できなかった場合
明渡猶予制度
代金納付日から6か月間の明渡猶予期間が認められる占有者については、同期間経過後でなければ引渡命令に基づく強制執行はできません。ただし、代金納付後、買受人が建物使用者に対し建物の使用対価の1か月分以上の支払いを相当の期間を定めて催告し、その期間内に支払いがなかった場合は、6か月の期間経過前でも引渡命令に基づく強制執行が可能です。
建物収去は不可
土地に対する引渡命令を得ても、売却対象外の地上建物を収去(取り壊し)することはできません。別途、建物収去土地明渡訴訟を提起し、勝訴判決等を得る必要があります。
引渡命令の手続の流れ
① 引渡命令の申立て
申立て期間:代金納付の日から6か月以内。代金納付時に明渡猶予を受ける占有者がいた場合は9か月以内。代金納付前には申立てできません。
「賃借権の存否は不明だが、6か月間明渡が猶予される賃借権が存在するものとして……」と記載された占有者については、申立可能期間が必ずしも9か月になるとは限りません。明渡猶予制度の適否は、審尋等を経て引渡命令発令時に判断されるため注意が必要です。
申立書の作成、必要書類(物件目録、当事者目録、資格証明書等)の準備、申立費用(相手方1人につき500円)、送達料が必要です。費用は事件によって異なります。
相手方が法人の場合、代表者または管理人が欠けている、あるいは代表権を行使できない場合は、特別代理人の選任が必要です。破産管財人が選任され、破産財団から不動産が放棄されていない場合は、その管財人が相手方となります。
手続きの詳細は個々の事件で異なるため、代金納付で裁判所に出向いた際に、引渡命令担当窓口で必ず確認しましょう。
② 引渡命令の発令、送達
当事者に引渡命令正本が送達された日から1週間は、執行抗告(高等裁判所への上訴)が可能です。申立人も引渡命令却下の場合は執行抗告が可能です。
執行抗告の申立てがなく、執行抗告期間の1週間を経過すると、引渡命令が確定します。
③ 執行文付与申立・送達証明申請
引渡命令が確定後、速やかに執行文付与申立てと送達証明の申請を行い、執行文と送達証明書を取得します(執行文は引渡命令正本と一体化するため、申請時に引渡命令正本も提出)。
手数料:執行文1通につき300円、送達証明書は相手1名につき150円の印紙が必要です。
④ 執行官に対する執行申立て
引渡命令正本(執行文付き)、送達証明書、相手方が法人の場合は代表者事項証明書を添付し、執行官に引渡命令の執行を申し立てます。
執行費用の予納金が必要です(裁判所ごとに異なりますが、相手方1名あたり6万円程度)。
執行官は、原則として1か月以内の期限を定めて明け渡すよう催告し、それでも明け渡しに応じない場合は、明け渡しの執行(断行)を行います。断行(運送)業者などには相当の費用がかかります。
⑤ 明け渡し完了
上記手続きを経て、明け渡しが完了します。
物件明細書作成後に判明した事実や資料等により裁判所の判断が変わる場合や、抗告審で執行裁判所と異なる判断がなされる可能性もある点に留意が必要です。
強制執行手続の流れ
①債務名義(引渡命令)の取得
引渡命令は、強制執行を行うための債務名義の一つです。債務名義には引渡命令のほか、確定判決(仮執行宣言付判決)、執行文付与仮執行宣言付支払督促、和解調書、公正証書などがあります。引渡命令取得後には、送達証明書が必要になります。
②強制執行の申立
引渡命令に基づき強制執行を申し立てる際には、以下の書類等が必要となります(詳細は管轄の地方裁判所によって異なります)。
○強制執行申立書
○執行文付債務名義正本
○送達証明書
○当事者の資格証明書
○予納金
○目録類など
③執行官面接
通常、執行官と電話面接などで日程などを打ち合わせます。物件の現場状況などの説明が必要となる場合もあります。執行の際には、執行補助業者(当グループの商工管理株式会社は執行補助業者です)や解錠技術者(鍵屋)の手配も必要となります。申立から催告までは、原則として2週間以内ですが、特に東京近郊の地裁では執行官の都合がつかず、1か月近く先の日程を指定されることも多いです。
④催告
執行官が現地にて占有者を確認し、引渡断行日を決定します。断行作業の見積もりも同時に行います。占有者がいないと認められる現場には「公示書」が貼付され、その場合、即日引渡断行(⑤と⑦)へと進むことがあります。
債務者宛に「催告書」が残され、「調書」が郵送されます。
催告は、占有者が任意の明け渡しに応じる可能性がある場合に行われます。
以下の場合は、催告が行われずに引渡断行が実施される可能性があります。
○遺留品がない場合
○価値のある動産がない場合
○占有者が明け渡す旨の陳述をしている場合
催告ができない場合(占有が認められないなど)は、執行不能となることがあります。
占有者(債務者)が自主的に退去した場合、債権者が申立てを取り下げ、執行作業は完了となります(⑤取下執行作業完了)。
⑤断行(強制執行)
原則として、催告から1か月以内に行われます(当事者恒定効が1か月以内のため)。
例外的に、長期間不在の場合の遺留品については、以下の対応が取られることがあります。
○長期間不在で遺留品がある場合、現場で保管(上申書が必要)
○長期間不在で遺留品が少ない場合、即日売却(⑦へ)
遺留品(残置物)がある場合は、目的外動産目録が作成されます。
占有者(債務者)が無断で退去し、残置物がない場合は、引渡し後に執行完了となります。建物の引渡しには鍵交換が必要となります。
⑥遺留品保管
断行後、遺留品は倉庫や現場などで保管されます。断行から1か月以内に売却日が設定されます。
占有者(債務者)が保管された遺留品を引き取った場合は、執行完了となります。保管方法にはちょっとした裏ワザがあり、執行費用をかなり押さえることができたりします。ただベテランの断行業者がいなければできないことですが。
⑦売却(目的外動産の換価)
債務者が遺留品を引き取らない場合は、売却手続きが行われます。動産の買い受け人が現れない場合は、実務上、債権者が買い受けることが多いです。
⑧執行費用額確定処分
占有者(債務者)に執行費用を請求する場合は、執行費用額確定処分の申立てを行う必要があります。
以上の手続きを経て、強制執行作業は完了となります。
8章 用語集
[ あ ]
空き家(残置物あり)
建物は空き家ですが、内部に所有者などが残していった物があります。買受人は、残置物を勝手に処分することはできないので、原則として執行官に費用を予納した上で明渡執行を求める必要があります。なお、空き家であるとの認定は、執行官が行った現況調査時点の資料にもとづき判断したものであって、現時点において空き家であることを示すものではありません。
明け渡しの催告
明渡執行に際し、執行官が、債務名義上の債務者が不動産を占有していることを認定し、執行に着手することが可能であると判断した上で、明け渡しの断行予定日を定めて、債務者に告げることにより、その日までに任意に明け渡しをするよう占有者に促すことです。この催告を公示することにより、その後、断行日までの間に不動産の占有の移転があった場合であっても、はじめから手続をやり直すことを要しないで、直ちに明渡執行を断行することができます。
明渡猶予制度
抵当権者に対抗することができない賃貸借(従前、対抗することができるとされていた短期賃借権も含みます。)にもとづく抵当建物の占有者に対し、建物の競売による売却の時から6か月間は、建物を買受人に明け渡さなくてもよいこととする制度です。占有者は、明渡猶予により無償で建物を使用する権利を与えられるわけではなく、建物所有者である買受人に対し、建物の使用の対価として、賃料相当額を支払わなければなりません。明渡猶予の対象となる場合については、物件明細書の「物件の占有状況等に関する特記事項」の欄にその旨の記載があります。
[ い ]
移行地
住宅地・商業地・工業地の各種別のうちで、他の種別へ移行中の(地域が変動中)地域にある土地のことです。※例:住宅地域から商業地域へ移行中の地域にある土地→「商業移行地」。
[ か ]
買受可能価額
買受可能価額とは、売却基準価額からその20パーセントに相当する額を控除した価額のことです。買受けの申出の額は、この価額以上でなければなりません。
買受適格証明書
売却物件が農地である場合、その所有権を移転するには農業委員会又は都道府県知事の許可が必要であるため、買受申出ができる者を、上記の機関が交付した「買受適格証明書」を有する者に限っています。裁判所で入札するためには、あらかじめ買受適格証明書を取得しておかなければなりません。
買受人の所有権取得
買受人が代金を納付すると、そのときに不動産の所有権を取得します。買受人は、裁判所から送付された「代金納付期限通知書」に同封された「振込依頼書(兼入金伝票)」に必要事項を記載の上、指定銀行あてに代金を振り込み「保管金受入手続添付書(3枚つづの2枚目)」を受け取ります。必要事項を記載した「保管金提出書」に、「保管金受入手続添付書」を添付して、裁判所に提出し、「保管金受領証書」を受け取ります。法律上はこの時点で買受人に対する所有権移転の効力が生ずることになります。
開札
入札期間が終わると、あらかじめ公告されていた開札期日に開札が行われます。開札は、裁判所内の売却場で、執行官が入札書の入った封筒を開封して入札書を読み上げます。入札した人のうちもっとも高い価格を付けた人が「最高価買受申出人」と定められます。その人の提供した保証は、そのまま裁判所が預かりますが、その他の入札人には、保証を返還します。
開始決定・差押え
強制競売や担保不動産競売の申立てを受けた執行裁判所は、申立てが適法にされていると認められると、不動産執行を始める旨及び目的不動産を差押える旨を宣言する開始決定を行います。開始決定がされると、裁判所書記官が管轄法務局に対して目的不動産の登記簿に「差押」の登記をするように嘱託をします。また、債務者及び所有者に開始決定正本を送達することになります。
確定した執行決定のある仲裁判断
仲裁判断にもとづいて強制執行するには、あらかじめ日本の裁判所において、強制執行を許す旨の決定(執行決定)を得なければなりません。
確定した執行判決のある外国判決
外国の判決にもとづいて強制執行するには、あらかじめ日本の裁判所において、強制執行を許す旨の判決(執行判決)を得なければなりません。
確定判決
確定判決とは、上訴裁判所によって取消しされる余地のなくなった判決のことです。このうち、強制執行できるのは、給付請求権を表示した給付判決に限られます。
確定判決と同一の効力を有するもの
裁判上の和解調書・請求の認諾調書・家事調停における調停調書・破産手続における破産債権者表・民事再生手続における再生債権者表・会社更生手続における更生債権者表及び更生担保権者表等の記載は、確定判決と同じ効力を有し、それらの文書にもとづき強制執行をすることができます。(裁判上の和解と同一の効力を有するもの)民事調停における調停調書・民事調停における調停に代わる決定。
仮換地
土地区画整理事業を施行する者は換地処分を行う前に仮換地を指定して、従前の宅地の権利者に使用等をさせることができます。なお、仮換地について使用・収益を開始することができる日を別に定める場合があることに注意してください。
仮執行宣言付支払督促
支払督促は、債権者から申立てを受けた裁判所書記官が債務者に対し一定額の金銭を支払う旨の命令を発するものです。支払督促送達後、2週間以内に債務者が督促異議の申立てをしないときは、そのときから30日の期間内に、債権者は仮執行宣言を申立てることができ、この宣言がされると、債権者は強制執行を申立てることができます。
仮執行宣言付判決
仮執行の宣言(「この判決は仮に執行することができる。」等という判決主文)が付された給付判決は、確定しないでも強制執行をすることができます。
換地
土地区画整理事業によって、従前地に換えて与えられる宅地のことです。なお、従前地と異なる場所に換地される場合(飛換地)もありますので注意を要します。
[ き ]
期間入札
裁判所書記官が定めた期間内に入札を受け付け、後日開札を行って落札者を決める入札方法。
期間入札の公告
期間入札で売却される不動産については、入札期間が始まる日の2週間前までに裁判所の掲示場か庁舎の中の掲示板に、公告が掲示されます。公告には、売却される不動産、入札期間、開札期日が開かれる日時・場所、不動産の売却基準価額、買受可能価額、買受けの申出に際して提供しなければならない保証の額や提供方法など、売却についての重要な事項が記載されています。買受けを希望される方は、まずこの公告を見て、自分の買いたいと思う不動産を選択してください。BITでは、3点セットの冒頭に期間入札の公告の写しを添付しています。 なお、多くの裁判所では、新聞などに不動産執行の広告を出しているので、参考にしてください。
強制執行開始の要件
強制執行の開始又はその続行には、債権者からの執行力ある債務名義の正本にもとづく申立てのほか、次の要件が必要です。(1)債務名義の正本等が債務者に送達されていること。(2)請求が確定期限の到来に係る場合には、その期限が到来したこと。(3)請求が債権者の引換給付義務の履行に係る場合には、その反対給付又はその提供をしたこと。(4)請求が代償請求の場合には、主たる請求の執行が不能に帰したこと。(5)請求が債権者の担保の提供に係る場合には、担保を立てたこと。なお、債務者につき破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、整理又は特別清算の開始があると、これらは執行障害となり、執行を開始し又は続行することができなくなります。
強制執行手続
強制執行手続は、勝訴判決を得たり、相手方との間で裁判上の和解が成立したにもかかわらず、相手方がお金を支払ってくれなかったり、明け渡しをしてくれなかったりする場合に、債務名義を得た人(債権者)の申立てにもとづいて、相手方(債務者)に対する請求権を、国家の執行機関が強制的に実現する手続です。
近隣商業地域
近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業、その他の業務の利便を図る地域。
銀行ローンを利用する場合(法82条2項の申出)
買受人が金融機関等から残代金相当額の融資を受け抵当権を設定し、買受不動産を担保に融資を受ける場合は、代金納付前に執行裁判所に対しその旨の申出(民事執行法82条2項の申出書の提出)をしなければなりません。申出に際しては、金融機関等との抵当権設定の契約書(写し)及びその金融機関等と連名で登記の申請の代理を業とすることができる者(司法書士又は弁護士)を指定した「指定書」等が必要となります。銀行ローン利用の申出は、代金納付期限の1週間前(遅くとも代金納付期限の3日前まで)までに行ってください。詳細については備え置きパンフレットを御覧いただくほか、融資先の金融機関、指定する司法書士又は弁護士に相談してください。
[ け ]
形式的競売
留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売の総称です。これらの手続については、担保権の実行としての競売の例によるとされており、形式的競売の根拠となる民法等実体法規定の趣旨になじまない場合を除き、できるだけ担保権の実行としての競売の手続と同じ取り扱をします。
競売市場修正
競売手続に必然的に随伴する減価要因(売主の協力が得られないことが常態であること、買受希望者は内覧制度によるほか物件の内部の確認が直接できないこと、引渡しを受けるためには法定の手続をとらなければならない場合があること等)を売却基準価額に反映させる目的で、一般の不動産市場における売却可能な価格を算出した後(市場性修正を施した後)に行う価格修正のことです。
競売申立ての取下げ
申立ての取下げとは、申立債権者がその申立てを撤回する行為です。開始決定がされた後でも、売却が実施されて売却代金が納付されるまでは、いつでも申立てを取下げることができます。ただし、売却が実施されて、執行官による最高価買受申出人の決定がされた後の取下げについては、原則として最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を必要とします。したがって、確実に取下げるためには、申立債権者は、開札期日の前日までに執行裁判所に対し取下書を提出する必要があります。買受人が代金を納付した後は、申立ての取下げはできません。申立てを取下げるためには、事件番号、当事者、目的不動産を記載し、申立てを取下げる旨を明言した書面(取下書)を執行裁判所受付窓口に提出しなければなりません。既に入札期間が開始されているときは、提出時にその旨をお知らせください。取下書は、裁判所提出用正本に加え、債務者・所有者の数分の副本を提出してください。取下書には、その真正を担保するため申立時に使用した印鑑を押印してください。印鑑が異なる場合は、印鑑証明書を添付する必要があります。
建ぺい率
建築物の建築面積の敷地面積に対する割合のことです。地域内の建物は、都市計画法で定められる区分ごとの定率以下であることが必要ですので、市町村の「都市計画図」等で確認してください。角地や一定の地域での耐火建築物での増加等があることに注意してください。なお、地域内においても個々の土地については、上記の増加等が異なりますので各々確認することが必要です。
減価修正
減価の要因分析をして求められた減価額を対象不動産の再調達原価から控除することであり、価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることです。建物の減価率は「定額法」、「定率法」及び直接観察して減価率を求める「観察減価法」がありますが、一般的にはこれらを併用する方法で減価修正が行われます。
原価法
不動産の価格をその再調達(再取得)に要する費用に着目して求めようとするものであり、価格の判定の基準日(「価格時点」ともいう。)において、対象不動産を再調達することを想定した場合に必要とされる原価(土地の更地価格や建物の再建築費用等)を求め、これから例えば建物であれば経年や損傷等に応じた減価額を控除して対象不動産の試算価格(積算価格)を求めるものです。
現況地目
登記簿上とは別に、現実の地目が記載されています。
現況調査
執行官は、執行裁判所の現況調査命令によって、不動産の形状、占有状況、占有者の権原等を調査し、現況調査報告書を作成し、執行裁判所に提出します。
現況調査報告書
執行官が、実際に競売物件を見た上で、その物件に関する権利関係や占有状況、形状などについて調査した内容を記載した書類です。現況調査報告書には、土地の現況地目、建物の種類・構造等不動産の現在の状況のほか、不動産を占有している者の氏名やその者が占有する権原を有しているかどうかなどが記載されており、不動産の写真等が添付されています。
[ こ ]
工業専用地域
工業の利便を増進するための地域。
工業地
工業地域に存する宅地のことであり、「工業地」、「準工業地」、「工場地」、「倉庫地」、「流通業務地」、「臨海又は臨空工業地」等の表現をしている場合があります。
工業地域
主として工業の利便を増進するための地域。
抗告によらなければ不服申立てができない裁判
強制執行をするには債務名義が必要ですが、確定判決や仮執行の宣言を付した判決等と同じく、抗告によらなければ不服申立てができない裁判も債務名義となります。ただし、確定しなければその効力を生じない裁判(例えば、民事執行法83条の引渡命令)にあっては、確定したものに限ります。
公示価格
国土交通省土地鑑定委員会は、地価公示法にもとづき、都市及びその周辺地域で標準地を選定し、毎年1回基準日(1月1日)における標準地(公示地)の正常な価格を判定し、これを公示しており、これを公示価格といいます。評価書においては、「地価公示価格」との表現で価格資料として掲げています。
個別補正
「標準価格」に対象地の有する個別性を考量した個別の格差修正(個別修正、個別補正、個性率適用等の言葉で表現されています。)を行って対象地の価格を求める手法です。
[ さ ]
最高価買受申出人(買受申出人)
最高価買受申出人とは、期間入札の開札期日において、適法な入札をした者の中でもっとも高額な入札金額の申出をし、執行官から最高価買受申出人と定められた者のことです。また、買受申出人とは、一定期間買受可能価額以上による定額販売方式を実施する特別売却において、売却実施期間中に最初に適法な買受けの申出をし、執行官から買受申出人と定められた者のことです。
再調達原価
不動産を価格時点において再調達することを想定した場合に必要とされる適正な原価のことです。建物のみ、建物及びその敷地の場合だけでなく、最近の造成地、埋立地等の対象不動産が土地のみである場合にも求めることができます。再調達原価は建設請負により、請負者が発注者に対し直ちに使用可能な状態で引渡す通常の場合を想定して、「標準的な」建設費に発注者が直接負担する通常の付帯費用を加算して求めます。
債務名義
強制執行によって実現されることが予定されている私法上の給付請求権の存在、範囲、執行当事者(債権者・債務者)を表示した公の文書のことです。強制執行をするには、この債務名義がなければなりません。債務名義の例としては、判決や支払督促などがあります。
更地
建物及び構築物等の定着物がなく、かつ使用等を制約する権利の付いていない土地のことです。
3点セット
(1)土地の現況地目、建物の種類・構造など不動産の現在の状況のほか、不動産を占有している者の氏名やその者が占有する権原を有しているかどうかなどが記載され、不動産の写真などが添付された現況調査報告書、(2)競売物件の周辺の環境や評価額が記載され、不動産の図面などが添付された評価書、(3)競売後もそのまま引き継がなければならない賃借権などの権利があるかどうか、土地又は建物だけを買受けたときに建物のために底地を使用する権利が成立するかどうかなどが記載された物件明細書のそれぞれの写しを1冊のファイルにしたもので、各地方裁判所に閲覧できるよう備え置いたものです。競売物件の買受けのために重要な内容が記載されていますから、その内容をよく理解して吟味する必要があります。なお、このBITでは3点セットの内容そのものをインターネットで公開し、ダウンロードできるようにしています。
[ し ]
市街化調整区域
都市計画地域のうち、無秩序な市街化を防止するため原則として住宅等の建設、開発を制限する区域(市街化を抑制すべき区域)のことです。したがって、農林・漁業施設や公共・公益施設等を除く開発行為は、都道府県知事の許可を要することとなり、市街化調整区域内は原則として住宅等は建築できませんが、例外として認められるものや特殊なものとして許可されるもの等もあり、特定行政庁(市町の都市計画課)にその都度確認することを要します。
市場性修正
競売不動産の評価では、対象物件自体の個別的要因(形状、規模、接道状況等)による増減価は、試算価格査定の段階で行われるのが通常ですが、例えば、借地権付建物のように、個別的要因を考慮しても、その物件の特殊性のために需要が限定され(土地の賃貸人など買受人が事実上特定の人に限定されることが多いと思われます。)、売却が困難である場合がありえます。このように、主に物件自体に固有に内在する市場性を制約する要因による修正を「市場性修正」といいます。
執行証書
公証人がその権限にもとづき作成した公正証書であって、一定の金銭の支払又はその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求を表示し、かつ、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの。
執行文
強制執行の実施は、執行文の付された債務名義の正本にもとづかなければなりません(民事執行法25条)。この執行文の制度は、債務名義が存在していても、それが現在執行力を有するか、また、誰との関係で執行力を有するかについては更に調査を要することから設けられています。執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が、その点を調査して、債務名義の正本の末尾に執行力がある旨の証明(「債権者Aは債務者Bに対し、この債務名義により強制執行することができる。」)を付記します。
収益価格
不動産の価格を求める手法の1つである「収益還元法」を適用して試算された試算価格を「収益価格」といいます。収益価格は、収益性不動産(賃貸物件)のほか、賃貸借をすることが物理的、経済的に合理的である不動産においても試算します。
収益還元法
不動産の価格を求める手法の1つであり、対象不動産が生み出すであろうと期待される収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格(収益価格)を求める手法です。
商業地
商業地域に存する宅地のことであり、「高度商業地域」、「準高度商業地域」、「普通商業地域」、「沿道又は路線商業地域」、「近隣商業地域」、「小売商業地域」等の表現をしている場合があります。
商業地域
主として商業その他の業務の利便を図る地域。
所有権移転手続
代金納付手続が終わったら、裁判所書記官から管轄法務局に対し、次の登記嘱託手続をすることになります。(1)前所有者から買受人に対する所有権移転登記(物上保証人の方が買受けた場合は不要です。)(2)差押登記や抵当権等の設定登記抹消登記。上記の登記を嘱託する際には、登録免許税法の定めにより手数料(収入印紙又は納付書による納付)を納付しなければなりません。
新聞等への広告
売却の情報を広く一般に提供するため、大多数の地方裁判所では公告事項の要旨を日刊新聞に広告し、また、大都市部の地方裁判所を中心に住宅情報誌等にも掲載しています。
事件番号
裁判所が個々の事件を識別して、適切に処理していくために付した符号及び番号で、例えば強制執行事件であれば令和16年(ヌ)第○○号等と表示されます。裁判所ではたくさんの事件を事件番号によって管理していますので、裁判所に照会するときは必ず事件番号を告げてください。
次順位買受の申出
次順位買受の申出とは、最高価買受申出人が売却代金を支払わなかった場合に次順位買受申出資格者が買受人となることを、開札期日において執行官に申出ることをいいます。ただし、申出をするには、(1)最高価買受申出人に次ぐ高額の申出であること、(2)申出額が買受可能価額以上であること、(3)申出額が最高価買受申出額から買受申出保証額を控除した金額以上であることが必要となります。
住宅地
住宅地域に存する宅地のことであり、「既存住宅地」、「共同住宅地」、「戸建住宅地」、「高級住宅地」、「中級住宅地」、「普通住宅地」等の表現をしている場合があります。
準工業地域
主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を図る地域。
準住居地域
道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するための地域。
[ せ ]
積算価格
不動産の価格を求める手法の1つであり、原価に着目して求める「原価法」を適用した場合に求められる一時的に試算された段階での中間的な価格(以下「試算価格」という。)を「積算価格」といいます。
船舶に対する強制執行
船舶に対する強制執行については、船舶執行における特殊部分を除き、不動産に対する強制執行の規定を準用しています(民事執行法121条)。
占有権原
所有者以外の占有者がいる場合に、その占有者の占有の根拠となる権利の内容です。
占有者、占有の状況及び地上建物の表示
例えば、物件が土地と建物の場合、建物の所有者は、土地の上に建物を所有して土地を占有(物件を支配している状態をいいます。)しているので、その旨の記載がされます。上記土地以外の建物の敷地:建物が売却対象外の土地の上にも建っているかどうかを表しています。もし、売却対象外の敷地があれば、敷地に対する利用権原が問題となります。
[ た ]
滞納債務
マンションを買受けた場合、買受けまでの管理費や修繕積立金などの滞納債務は、買受人が支払う必要があります。滞納債務は、物件明細書や評価書等に記載された額から、買受けまでに更に増加していることがあります。
宅地
住宅、店舗、工場他の建物等の敷地として利用されることが合理的な土地(現況の宅地)のことですが、不動産登記簿上の表示と必ずしも一致するものではありません。なお、宅地にあっては都市計画法や建築基準法・その他の法令による種々の制限がありますので、利用等に際しては行政機関への事前の確認を行ってください。
宅地見込地
将来宅地造成が行われて宅地に転換されることが合理的・合法的に見込まれる土地(農地・林地等)のことです。
建付地
建物等の敷地となっている宅地のことです。
建付地価格
建物の敷地となっている宅地(建付地)の価格のことです。「更地」は建物等がなく使用等を制約している権利が付いていないので、最有効使用が可能ですが、「建付地」は建物等があり、かつ建物等の継続使用を前提とした敷地部分であり、したがって建付地の価格は例外を除き、「更地」≧「建付地」の関係にあります。
担保権の実行
不動産を目的とする担保権の実行の方法には、担保不動産競売と担保不動産収益執行があります。担保不動産競売とは、競売(広く買受けの申出を行わせ、最高の価額で申出をした者に売るという売買方法)による不動産担保権の実行をいい、担保不動産収益執行とは、目的不動産を差押え、管理人にこれを管理させ、その不動産から生ずる収益を債権の弁済に充てる方法による担保権の実行をいいます。担保権は、抵当権、質権、先取特権等実体法上の優先弁済請求権を有するものに限られ、解釈上、担保的機能を有する物権としての法定担保ではない譲渡担保とか所有権留保等を含まず、また、優先弁済権を有しない留置権も含まれません。強制執行と異なり、債務名義は不要であり、担保権が登記されている登記簿謄本などが提出されれば、執行機関は手続を開始することとなります。なお、担保権の実行による競売手続も、強制執行手続と比較すると、債務名義を前提とする部分は異なりますが、それ以外の手続はほぼ同じです。
第1種住居地域
住居の環境を保護するための地域。
第1種中高層住居専用地域
中高層住宅のための良好な環境を保護するための地域。
第1種低層住居専用地域
低層住宅のための良好な住居の環境を保護するための地域。
代金納付
買受人が入札申出額から保証金額を控除した残代金額を裁判所に納めることです。この納付によって、不動産の所有権が買受人に移転します。期限までに代金を納付しないと買受ける権利を失い、買受申出のために提出された保証金も返還されません。代金が納付されると裁判所書記官は、登記所に所有権移転登記を嘱託します。なお買受人は買受代金のほかに所有権移転登記の登録免許税、切手代、引渡命令の申立費用、滞納債務、必要費・有益費、引渡命令の執行や残置物処分のための費用などを負担することになります。
代金納付期限通知
売却許可決定が確定すると、買受人は、裁判所書記官が定める納付期限までに、執行裁判所に対し代金を納付すべき義務が生じます。裁判所書記官は、特別の理由がない限り、売却許可決定確定日から1か月以内の日を定めます。代金納付期限が指定されたときは、その旨を通知するため「代金納付期限通知書」等を特別送達郵便で発送しますので、買受人はすみやかに受領してください。
代金の納付手続
最高価買受申出人等に売却を許可する執行裁判所の決定が確定すると、裁判所書記官は、特別の理由がない限り、確定の日から1か月以内の適当な日を代金の納付期限と定め、買受人に通知をします。買受人は、定められた期限までに、最寄りの金融機関から裁判所の預金口座に金銭を振り込んで金融機関の領収印のある保管金受入手続添付書を受け取り、それを裁判所に持参する方法、現金を裁判所に持参する方法、裁判所が指定した日本銀行の支店等に現金を納めて保管金領収証書を受け取り、それを裁判所に持参する方法のいずれかにより代金を納付しなければなりません。買受人が代金を納付しないと、不動産を買受ける資格を失い、提供していた保証の返還も受けられないことになります。そのため、入札をしようとするときは、入札後短期間のうちに代金全額を納付することができるように、取引のある金融機関等と相談するなどしてあらかじめ資金の準備をしておく必要があります。代金が納付されると、不動産は買受人の所有となります。
第2種住居地域
主として住居の環境を保護するための地域。
第2種中高層住居専用地域
主として中高層住宅のための良好な環境を保護するための地域。
第2種低層住居専用地域
主として低層住宅のための良好な住居の環境を保護するための地域。
[ ち ]
地代の代払の許可
借地上の建物が競売の目的物であるとき、その建物の所有者である債務者が地代を滞納すると、地主はそれを理由に賃借権の解除をすることができます。そうすると、せっかく差押えた建物が借地権を失い無価値同然となってしまうため、差押債権者は、債務者(所有者)が地代を滞納したときは、執行裁判所の許可を得て、債務者(所有者)に代わって地代を弁済することができます。
賃借権
買受人は、物件明細書の「買受人が負担することとなる他人の権利等」の欄に記載してある賃借権はそのまま引き受けなければなりません。したがって、上記欄に賃借権の記載があるときは、買受けてもすぐに自分で居住することはできません。貸主として賃料を受け取ることになります。賃料の前払いがされている場合は、前払いがされている期間の賃料は受け取ることができません。契約が終了したときは、敷金の欄に記載された金額から未払賃料や現状回復費用などを控除した額を賃借人に返還することになります。買受人は、買受後、期間の定めがない賃借権についてはいつでも、期間の定めがある賃借権についてはその期間が経過した後、解約を申入れることもできます。ただし、解約の効果が発生するためには、買受人の建物使用の必要性や立退料の提供などの正当事由の存在が必要となります。
賃借権(短期)
土地については5年以下、建物については3年以下の期間を定めた賃借権をいい、平成15年の法改正(平成16年4月1日施行)までは、該当する賃借権については、売却手続中に期限欄の期間が満了しないと、明け渡しを求めることができませんでしたが、平成15年の法改正により、この制度が廃止され、抵当権設定後の賃借権はすべて抵当権に対抗できないこととされました。その一方で、明渡猶予制度等が創設されています。ただし、平成16年4月1日時点で既に存する抵当不動産の賃借権(同日以後に更新されたものを含む。)のうち、上記の各期間を超えないものであって当該抵当不動産の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力は、なお法改正前の例によることとされています。
賃借権の譲渡の許可
第三者である買受人が借地上の建物を競売により取得した際、地主が、その土地の賃借権を買受人に変更しても地主の不利にならないのに、譲渡を承諾しない場合には、裁判所は、その買受人の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができます。
[ と ]
登録免許税
不動産競売手続において個人で買受けた場合、所有権移転登記に要する家屋についての「登録免許税」が軽減される場合があります。適用されるための要件 (1)その建物に自分が居住すること (2)床面積が50平方メートル以上であること(マンション等の場合は登記簿上の占有面積(附属建物も合算する。)を基準とします。) (3)築後経過年数(新築後の年数)(構造によって異なります。)
特別売却
特別売却とは、入札又は競り売りの方法以外の特別な売却方法であり、期間入札により売却を実施しても、適法な買受けの申出がなかった場合にのみ行う売却方法です。特別売却についても裁判所書記官の売却実施処分にもとづいて執行官が行います。特別売却には、(1)条件付特別売却 期間入札の売却実施処分と同時に、期間入札において適法な買受けの申出がないときに特別売却を実施するという「条件付特別売却実施処分」にもとづく売却方法 (2)上申による特別売却 条件付特別売却を実施しても買受けの申出がなかった場合で、差押債権者から特別売却の実施を要請する旨の上申書が提出され、裁判所書記官が相当と認めたときに実施するという「特別売却実施処分」にもとづく売却方法がありますが、いずれも特別売却期間中に一番先に買受けを申出た人に買受けの権利が与えられます。同一物件について、買受けの申出が同時に複数されたときは、くじ等により買受申出人を定めます。特別売却物件の買受申出も、執行官室で受け付けています。
特別売却の実施方法等
(1)特別売却物件 期間入札において適法な買受けの申出がなかった物件です。対象物件は、開札結果欄に「不売」と表示されている物件です。 (2)買受希望者は、執行官に対し、買受申出人の資格を証明した上で買受けの申出をし、保証金を提出することになります。 (3)売却基準価額 特別売却による売却基準価額は、その直前の期間入札における売却基準価額と同額であり、売却の申出ができる価額は、買受可能価額以上の価額です。 (4)買受申出の保証は、金銭又は執行裁判所が相当と認める有価証券を執行官に提出する方法によります。 (5)買受申出人とは、特別売却において、売却実施期間中に最初に適法な買受けの申出をし、執行官から買受申出人と定められた者のことです。
取引事例比較法
不動産の価格を求める手法の1つであり、マンションの価格を算出する際によく利用される手法です。近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する複数の取引事例について、それぞれ事情補正及び時点修正をし、並びに地域要因及び個別要因の補正をして求められた各試算価格を調整して対象不動産の価格を求めます。
動産に対する強制執行
動産に対する強制執行は、執行官がこれを行います(民事執行法122条)。
[ な ]
内覧
執行官が、買受希望者を不動産に立入りらせて見学させる制度です。内覧は、差押債権者の申立てがあった場合にのみ発令される内覧実施命令にもとづき実行されるものです。内覧は、占有者が立入りを拒んだり、差押債権者の申立てが取下げられたり、内覧実施命令が取消しされた場合には、実施することはできません(その場合の交通費等の弁償をすることはできません。)。また、他の内覧参加者の行為等によって、円滑な実施が困難になり、途中で実施できなくなることもあります。
[ に ]
入札の方法
(1)BIT等により3点セットを検討し、現地に行って物件を確認した上で、買受けたいと思う物件が見つかったら、執行官室で入札の受け付けをしていますので手続をしてください。入札をしようとする人は、執行官から入札書用紙と封筒を受け取り、これに必要事項を記入します。期間入札では、多数の不動産についての入札を同時に行うのが普通ですから、不動産を取り違えないよう注意してください。入札価格は、公告に記載された買受可能価額以上でなければなりません。 (1)入札の方法は、入札書を執行官に直接差し出す方法と、入札書を執行官にあてて郵送する方法とがあります。執行官に直接差し出す場合には、入札書を封筒に入れて封をし、その封筒に開札期日を記入した上で、入札期間内に差し出してください。郵送入札をする場合には、入札書を入れて封をし、開札期日を記入した封筒を、更に別の封筒に入れ、執行官にあてた郵便又は信書便で、入札期間内に届くように送付してください。入札期間を過ぎてから配達されたものは、無効となります。いったん提出した入札書は、訂正したり取消ししたりすることができません。入札するときには買受申出の保証金を提供することが必要です。保証の額は通常は売却基準価額の20パーセントですが、それ以上のこともありますので、公告により必ず確認してください。 (3)入札期間経過後、公開の開札期日に裁判所内の開札場で開札が行われ、もっとも高い金額で入札した人(「最高価買受申出人」といいます。)が買受ける権利を取得します。それ以外の人のうち、次順位買受申出をした者を除く入札人の保証金は返還されます。
[ の ]
農地
農地地域のうちにある耕作の用に供されている土地のことです。農地法上の「農地」は転用・移転等が制限(許可又は届出等)されており、買受人の適格性等の制限を受けるため注意してください。
農地見込地
農地地域や周辺にある山林や原野等で、農地造成が行われて農地に転換されることが合理的・合法的に見込まれる土地のことです。
[ は ]
配当
執行裁判所が、配当期日において、差押債権者や配当の要求をした他の債権者に対し、法律で規定される権利の順番等に従って売却代金を配る手続です。執行裁判所が配当の定めをした場合には、裁判所書記官がその定めにもとづいて配当表を作成し、この配当表にもとづいて配当が実施されます。原則として、抵当権を有している債権と、債務名義しか有していない債権とでは、抵当権を有している債権が優先します。また、抵当権を有している債権の間では、抵当権の設定登記がされた日の順に優先し、債務名義しか有していない債権の間では、優先関係はなく、平等に扱われます。
配当要求
配当要求とは、債権者が、配当等を受けるべき債権者の地位を取得するために、既に開始されている他の債権者が申立てた競売手続に参加して自己の債権の満足を受けようとする手続です。しかし、誰でもこの手続に参加することができるわけではなく、配当要求をすることができる債権者は限定されています。配当要求は、他の債権者が申立てた競売手続に参加し、その手続上で配当等を受ける地位を取得するにすぎないため、当該手続が取下げ又は取消しにより終了した場合は配当要求も効力を失います。
売却基準価額
売却基準価額は、従来の最低売却価額に相当するもので、評価人の評価にもとづいて定められた競売不動産の価額です。売却基準価額が適正であるためには、評価が適正でなければなりません。そこで、裁判所は、評価書を、現況調査報告書、不動産登記簿謄本等とともに審査し、評価の前提とした目的不動産に関する事実関係及び権利関係が的確に把握されているか、並びに評価の方法及び計算過程が適正であるかを検討した上で売却基準価額を定めることになります。
売却許可決定
最高価買受申出人が決まると、「売却決定期日」(あらかじめ公告されています。)が開かれ、最高価買受申出人に不動産を売却するか否かを、執行裁判所が決定します。最高価買受申出人が不動産を買受ける資格を有しない場合など、一定の場合には、売却が許可されないこともありますが、普通の場合には売却が許可され、最高価買受申出人は買受人となります。
売却許可決定の確定
債権者、債務者及び所有者等の利害関係人は、売却許可決定に対する不服申立方法として執行抗告をすることができますので、公告の掲示日の翌日から起算して1週間以内に執行抗告の申立てがされない場合に売却許可決定が確定することになります。売却許可決定が確定した時点で買受申出人は、目的不動産の「買受人」としての代金納付義務が発生します。買受人の事情により目的不動産の取得を取りやめる場合は、入札時に差し入れた保証(入札保証金)を放棄することにより、代金納付義務を免れることができます。最高価買受申出人又は買受人たる地位(権利)の譲渡は、相続等の一般承継の場合を除き、認められません。
売却決定期日
売却決定期日とは、執行裁判所が最高価買受申出人(又は買受申出人)に対し、不動産の売却を許可するか否かを審査し、その結果について決定という裁判を行う期日です。裁判所書記官は、通常は、売却決定期日を開札期日から1週間以内の日に指定します。執行裁判所は、売却決定期日において最高価買受申出人等の買受けの申出に対する許否を明らかにするため、これまでに実施された一連の手続が適正に行われたか否かについて職権で調査を行い、民事執行法71条に定める売却不許可事由に該当する場合を除き、通常は売却許可決定という裁判を行います。売却許可決定が言い渡されたときは、その内容を裁判所の掲示場に公告します。買受人が配当を受けられるべき債権者である場合は、売却代金から買受人が配当等を受けるべき額を差し引いた残額だけを配当期日等に納付することも認められています。差引納付の申出は売却許可決定が確定するまでに申出なければなりません。
[ ひ ]
引渡命令
引渡命令とは、買受人が代金納付を済ませた後、建物から簡易な手続(通常の裁判と比較して)で占有者を退去させる命令のことです。代金を納付した買受人又はその一般承継人から、引渡命令の申立てがなされると、執行裁判所は、発令要件を備えていると認めた場合、競売不動産を引渡すべき旨の決定をします。なお、占有者が自発的に退去しない場合は、引渡命令にもとづいて退去させるための強制執行が必要です。その場合には、退去執行のため別途費用がかかります。
引渡命令の執行
引渡命令が相手方に送達になり、執行抗告(引渡命令に対する不服申立て)がなければ1週間で確定し、強制執行ができる効力(これを「執行力」といいます。)が発生します。なお、実際に明け渡しの強制執行をする場合には、引渡命令に対する執行文の付与(申立手数料は1件につき300円)及び送達証明(手数料は証明事項1個につき150円)の申請を裁判所書記官にし、これらの書類(執行文付きの引渡命令正本及び送達証明)にもとづき、執行官に明渡執行を申立てなければなりません。また、実際に明け渡しの強制執行をする場合には、上記手数料のほかに、執行官に対し必要な費用(家具などの運搬費用や執行官手数料など)を予納しなければなりません。
比準価格
不動産の価格を求める手法の1つである取引事例から比較して求める「取引事例比較法」を適用して、試算された試算価格を「比準価格」といいます。
必要費・有益費
建物の占有者が建物の修繕などのために必要又は有益な費用を支出している場合には、この費用を占有者に支払う必要があります。占有者が、留置権を主張している場合、この費用を支払わなければ、買受けた建物の明け渡しを受けることはできません。金額に争いがあり、話し合いで解決がつかない場合には、民事訴訟などによって解決することになります。物件明細書に記載された必要費・有益費の額は、作成時点で裁判所書記官が、執行裁判所の売却基準価額の決定の資料とするために記載した額ですので、現実に支払う額は必ずしもこれと同額とは限りません。
評価書
執行裁判所の選任した評価人(原則として、不動産鑑定士を選任しています。)が、その物件の価格評価とその算出過程などについて記載した書類です。評価書には、不動産の評価額、周囲の環境の概要等が記載されており、不動産の図面等が添付されています。これらを見れば、算出された評価額の理由、不動産の現況と、それをめぐる公法上の規制等法律関係のあらましが分かるようになっています。
標準画地価格
土地価格を求めるに当たって、例えば対象地が角地である場合や付近の土地と比較して形状が劣る等の個別性を有する場合に、まず地域の標準的な画地(例えば一般住宅地域においては整形な中間画地等)を想定した価格を求める場合があり、この価格を「標準画地価格」といいます。
[ ふ ]
風致地区
都市計画法にもとづく地域地区の1つで、良好な自然的な景観(風致)を維持するために定める地区のことです。風致地区においては、都市計画法による基準にもとづき定められる都道府県の条例で建築物の建築、その他の工作物の建設、宅地造成、その他都市の維持に影響を及ぼすおそれのある行為は、都道府県知事の許可を受けなければなりません。また、条例において、建築物に対しては、高さ・建ぺい率・壁面の後退等の規制が定められています。
袋地
不動産の評価書中に袋地と表現している場合の土地は、土地の形状が袋形(路地状部分が道路に接する形)の不整形画地のことです。評価人によっては「路地状部付宅地」等の表現をしている場合があります。建築基準法43条の規定により、建築物の敷地は建築基準法上の道路に2メートル以上接しなければなりませんので注意を要します。また、用途又は規模の特殊性により、地方公共団体の条例で制限を付加することができるようになっていますので、事前によく調べる必要があります。
不動産競売
地方裁判所では、債務を弁済することができなくなった人の所有する不動産等を差押えて、これを売却し、その代金を債務の弁済にあてる手続を取り扱っています。これが不動産の競売です。不動産の買受けについて更に詳しいことを知りたい方は、最寄りの地方裁判所か、その支部の競売係にお問い合わせください。
不動産執行の申立て
不動産執行の申立ては、書面でしなければなりません。申立ては、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む。)にします。申立てに必要な資料等については、申立てをする地方裁判所に問い合わせてください。
不動産に関する情報
買いたいと思う不動産が見つかったら、その不動産についてよく調査してください。そのために裁判所では、物件明細書、現況調査報告書及び評価書という三点セットの写しを、入札期間が始まる日の1週間前までに備え置き、誰でも見ることができるようにしてあります。これらを見れば、不動産の現況とそれをめぐる法律関係のあらましが分かるようになっています。これらの資料はBITでも見ることができます。なお、これらの書類はあくまでも参考資料であることを心得ておいてください。大きな買物をするのですから、買受申出をしようとする場合は、現地に行って自分の目で物件をよく見るほか、登記所などへも行って権利関係を確かめるなど、必ず、自ら調査、確認することが大切です。調査、確認が困難な場合や、権利関係が複雑な場合などは、弁護士などの専門家に相談されるとよいでしょう。
不動産に対する強制執行
不動産に対して行う強制執行の方法には、強制競売と強制管理があります。強制競売は、債務者所有の不動産を差押え、これを換価し、その売得金を債権者の債権の弁済に充てることを目的とする執行方法です。強制管理は、目的不動産を差押え、管理人にこれを管理させ、その不動産から得る収益を債権の満足に充てることを目的とする執行方法です。
不動産の調査
買いたいと思う不動産が見つかったら、その不動産についてよく調査してください。そのために裁判所では、物件明細書、現況調査報告書、評価書という3つの書類の写しを入札期間が始まる日の1週間前までに備え置き、誰でも見ることができるようにしてあります。物件明細書には、その不動産を買受けたときに、買受けた人がそのまま引き継がなければならない賃借権などの権利があるかどうか、土地か建物だけを買受けたときに建物のために地上権が成立するかどうかなどが記載されています。
不動産の引渡し
所有権を取得した買受人は、不動産を占有している者に対して、引渡しを求めることができます。従前の所有者が任意に引渡さないときなど、一定の場合には、代金を納付した日から6か月以内(買受けのときに民法395条1項に規定する建物使用者が占有していた建物の買受人にあっては9か月以内)に申立てることによって、引渡命令という裁判をしてもらえます。この裁判がされると、執行官に申立てて、従前の所有者等を強制的に立ち退かせることができます。ただし、引き続いて居住する権利を有する人が住んでいる場合など自ら引き継がなければならない賃借権がある場合などには、すぐに引渡してもらうことはできません。
物件明細書
物件明細書は、民事執行法62条・民事執行規則31条により、買受人が引き受けることとなる権利関係など競売物件に関する一定の情報を記載して備え置くこととされているものです。物件明細書には、その不動産を買受けたときに、買受けた人がそのまま引き継がなければならない賃借権などの権利があるかどうか、土地か建物だけを買受けたときに建物のために地上権が成立するかどうか、その他参考となる事項が記載されています。物件明細書は、裁判所書記官が記録上表れている事実等とそれにもとづく認識を記載したものにすぎず、当事者の権利関係を確定するものではなく、権利関係に関する裁判を拘束するものでもありません。したがって、新たな事実の発生・発覚等によって権利関係が変わることもあり、また、物件の状態が変わることもありえます。そのため、入札を検討される場合には、必ず、御自身でも直接現地を見に行くなど十分な調査・確認を行うようにしてください。
物件明細書の記載事項
物件明細書には、これを作成した裁判所書記官の氏名及びその所属する執行裁判所名や事件番号、作成日付のほか、(1)「不動産の表示」、(2)「売却により成立する法定地上権の概要」、(3)「買受人が負担することとなる他人の権利」、(4)「物件の占有状況等に関する特記事項」、(5)「その他買受けの参考となる事項」といったものが記載されています。なお、裁判所では、たくさんの事件を取り扱っており、その管理は事件番号によって行っていますので、裁判所に問い合わせ等される場合には、必ず事件番号を告げてください。
物件目録
今回、売り出される物件の目録が記載されています。この記載内容により、土地と建物が売り出されているのか、建物だけなのか、売り出される権利は全部の所有権なのか、持分のみなのか等が分かります。なお、物件については、物件番号が付けられていますので、物件番号に注意するようにしてください。土地が一筆と建物が一棟だけの場合は、土地を物件(1)、建物を物件(2)と表示するのが一般的です。物件について、「持分○分の○」と記載されている場合には、当該物件については共有持分(他の人と分け合って所有する物の割合的な権利)のみの売却であり、買受人は当然に物件を使用収益できるとは限らないので、注意してください。
[ ほ ]
法定地上権
土地と建物を別々の人が所有することとなったときには、土地については地上権の負担を伴うものとなり、建物については、敷地に対して一定の範囲内で地上権を取得できることがあります。これを法定地上権といいます。
法定地上権価格
法定地上権価格とは、「法定地上権」という土地利用権について評価した価格のことです。法定地上権には、担保権の実行としての競売及び抵当権の設定された土地又は建物に対する強制競売の場合に民法388条の適用により成立するものと、抵当権の設定のない土地又は建物に対する強制競売の場合に民事執行法81条の適用により成立するものがあります。民法388条による法定地上権は、同一の所有者に属する土地又はその上に存する建物に設定された抵当権が実行され、それぞれ所有者を異にするに至ったときに、抵当権設定者が設定したとみなされる地上権のことです。また、民事執行法81条による法定地上権は、同一の債務者に属する土地又はその上に存する建物について強制競売が行われ、それぞれ所有者を異にするに至ったときに、その建物について設定されたとみなされる地上権のことです。法定地上権の成立時期は代金を完納した時期であり、存続期間は借地借家法3条により、30年となります。また、法定地上権の及ぶ範囲は、建物の利用上必要な限度で敷地以外の相当な範囲にも及び、一筆の土地の一部又は数筆にまたがって認められる場合もあります。不動産競売事件における評価においては、対抗要件を具備し、買受人に対抗できる土地利用権が存続するときの「土地」については、当該土地の価格から土地利用権価格を控除して評価します(土地利用権価格を控除した土地の価格が「底地価格」であり、土地利用権の制約を受ける土地として評価されることになります。)。土地利用権が建物に付着するものであるときは、その価格は建物の価格に加算されることになります。なお、建物の築造が土地への抵当権設定の後であるときは、抵当権者は当該土地及び建物を一括で競売することができますが、この場合には、買受人の所有権取得について何ら影響を及ぼしません。
保証の提供
入札をするときは、同時に保証を提供しなければなりません。その額は、通常は不動産の売却基準価額の20パーセントですが、それ以上のこともあります。保証の額も公告に記載されています。保証の提供は、次のいずれかの方法でしなければなりません。第1は、入札する前に、裁判所の預金口座に、最寄りの金融機関から保証の額に相当する金銭を振り込み、金融機関の領収印のある保管金受入手続添付書(振込依頼書の第2片)を入札保証金振込証明書の用紙に貼ってこれを入札書と共に提出する方法です。この場合、振り込まれた金銭が入札期間中に裁判所の預金口座に入金済みにならないと入札は無効ですから、なるべく「電信扱い」として早めに振り込んでください。入札保証金振込証明書と振込依頼書(3連複写式)の用紙は、入札書用紙と共に執行官室に備え置かれています。第2は、銀行、損害保険会社、農林中央金庫、商工組合中央金庫、全国を地区とする信用金庫連合会、信用金庫又は労働金庫と支払保証委託契約を締結して、その証明書を提出する方法です。この方法は銀行等が支払保証委託契約の締結に応じてくれることが前提となりますから、まず銀行等と相談してください。
[ み ]
見込地
評価上、より価値の高い他の種別の土地へ転換されることが見込まれる土地のことであり、「宅地見込地」、「農地見込地」等に分けられます。
民事執行手続
お金を貸した人(債権者)の申立てによって、裁判所がお金を返せない人(債務者)の財産を差押えてお金に換え(換価)、債権者に分配する(配当)などして、債権者に債権を回収させる手続です。民事執行手続には、強制執行手続や担保権の実行としての競売手続などがあります。
民事執行法63条2項1号の申出・申出額
差押債権者が、無剰余(不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たない場合)による競売手続の取消しを回避するため、民事執行法63条2項1号の申出及び保証の提供をする場合があります。具体的には、差押債権者は、手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(これを「申出額」といいます。)を定め、その申出額に達する買受けの申出がないときは、自らが申出額で買受ける旨の申出をし、更に、申出額に相当する保証を提供することになります。この場合、その他の買受希望者は、この申出額以上の買受けの申出をしないと最高価買受申出人になることができません。
[ よ ]
容積率
建築物の延面積の敷地面積に対する割合のことです。都市計画法で定められる区分ごとの定率以下で、かつ前面道路の幅員に応じた率以下でなければなりません。※注:「定率」とは、各用途地域ごとに都市計画法により定められていますが、一定の要件を満たした地階の床面積や共同住宅の廊下、階段室等の緩和もありますので各々確認することが必要です。
用途地域(用途地域に関する制限の意義)
良好な居住地域の確保や商工業その他の利便増進のために、都市の諸機能の適切配分化を図る目的で定められていますが、各々の土地地域内の建ぺい率・容積率や建物用途制限の詳細については多様のため表示しつくせないので、各市町村の都市計画課又は「都市計画図」等で確認されることが必要です。
[ り ]
林地
木の生育の用に供されている(山林である)土地のことです。
[ ろ ]
ローン制度
融資先の銀行等の金融機関と抵当権設定契約を締結することにより、金融機関のローンを利用することができます。ローンの利用については、融資先の金融機関にお問い合わせください。
[ わ ]
和解調書
和解の内容を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。