2025年5月21日、高齢者を狙う「押し買いリースバック」の危険性について、国民生活センターから注意喚起の報道資料が発表されました。
人生の終末期に向けた「終活」は大切な準備ですが、それに便乗した悪質な手口が後を絶ちません。特に高齢者を狙う「押し買いリースバック」には、深刻なデメリットが潜んでいます。消費者庁からの最新の注意喚起を踏まえ、具体的な被害事例を通じて、その危険性を再確認しましょう。前回の記事と重複するところも多いですが、深刻な問題なので繰り返します。

リースバック契約トラブルが急増!約7割が70歳以上!
国民生活センターは2025年5月21日、「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!-本当に『そのまま“ずっと”住み続けられる』契約ですか?-」という報道資料を発表し、住宅のリースバック契約に関する相談が全国の消費生活センター等に急増していることを明らかにしました。特に、契約当事者の約7割が70歳以上であり、高齢者がいかに悪質な業者のターゲットになっているかが浮き彫りになっています。
高齢者を狙う手口と具体的な被害事例
リースバックとは、自宅を売却した後も賃貸として住み続けられる仕組みです。しかし、悪質な業者はこの仕組みを悪用し、高齢者宅を訪問して大切なマイホームを不当に安く買い叩く「押し買い」の手法を用いて、契約後に法外な賃料を請求したり、高額な違約金を求めるなど、深刻な被害を引き起こしています。
業者は、見知らぬ高齢者の自宅に突然訪問し、「修繕費や固定資産税が不要になる」といったメリットを強調しながら、長時間にわたり執拗に勧誘するケースが報告されています。一人暮らしで心細かったり、判断力が低下していたりする高齢者の弱みに付け込み、「早くしないと売れなくなる」などと不安を煽り、相場よりも大幅に低い価格で契約を結ばせてしまうのです。
さらに、売却後に結ばれる賃貸契約では、不当に高額な家賃が設定されていることも少なくありません。ようやく不利益に気づき解約を申し出ても、業者は応じないばかりか、契約更新ができない「定期借家契約」であるために、将来的に住み慣れた家を追い出されてしまう危険性もあるのです。
国民生活センターが発表した報道資料から、特に注意すべき具体的な事例をご紹介します。
【事例1】長時間にわたる勧誘で契約。解約には高額な違約金!
「朝から晩までしつこく勧誘されて、嫌々サインしてしまった」 80代男性は、自宅マンションのリースバックについて「1,200万円で売却し、そのまま住める」という話を持ちかけられました。業者は朝から夜遅くまで10時間以上も居座り、「考えさせてほしい」と言っても聞き入れず、結局男性は仕方なく契約書にサインしてしまいました。 後になって親族から「売却価格が安すぎる」と言われ、解約しようとしたところ、業者から「手付金50万円は返せない上、さらに違約金50万円を払え」と言われたそうです。契約書には違約金の記載があったものの、勧誘時には一切説明がなかったため、男性は納得できませんでした。
【ポイント】
- 長時間にわたるしつこい勧誘には絶対に応じないでください。
- 契約書の内容は、必ず家族や信頼できる人に確認してもらいましょう。
- 説明がなかった高額な違約金には特に注意が必要です。
【事例2】強引な業者に恐怖を感じ、格安で自宅を売却させられた!
「部屋に押し入るように入ってきて、怖くて断れなかった」 90代の女性宅に突然電話があり、玄関先で10分だけ説明したいと言われました。しかし、当日やってきた担当者2人は、無理やり部屋に入り込み、マンションを売るよう執拗に勧誘。相場よりもはるかに安い「3,000万円で買い取り、月25万円の家賃を払えば住める」と言われたものの、女性は強盗事件が頭をよぎるほど怖くなり、その場から解放されたい一心で、何の書類か分からないままサインしてしまいました。 後日、売却はせずそのまま住み続けたいと伝えると、「解約には違約金600万円がかかる」と言われ、途方に暮れています。
【ポイント】
- 突然の訪問や強引な勧誘には、決して一人で対応しないでください。
- 不安や恐怖を感じたら、すぐに警察や消費生活センターに相談しましょう。
- 内容を理解できない書類には、絶対にサインしてはいけません。
【事例3】家賃が突然2倍近くに!「ずっと住める」は嘘だった!
「生活費に困っていた私を狙われた。まさか家賃がこんなに上がるとは…」 生活費に困っていた70代の女性は、テレビCMで見たリースバックに興味を持ち、業者に連絡しました。自宅マンションを1,600万円で売却し、「家賃は約6万円でそのまま住み続けられる」と言われたため、これなら払えると思い契約しました。 しかし3年後、突然家賃が約6万円から約11万円と倍近くに値上げされました。業者からは「3年後に家賃が上がることは契約時に説明している」「払えないなら早く退去してほしい」と言われたそうですが、女性はよく覚えていませんでした。売却金はすでに生活費で使ってしまい、これ以上家賃を払うことができずに困っています。
【ポイント】
- 「そのまま住み続けられる」という言葉を鵜呑みにしないでください。
- 契約期間中の家賃が固定なのか、将来的に値上げの可能性があるのかを必ず確認しましょう。
- 契約書の内容を十分に理解し、後から「聞いていない」とならないように注意してください。
【事例4】認知症の父が相場より非常に安価な売却額でリースバック契約をしていた
実家に住む80代の男性が転倒して入院した際、認知症と診断されました。その時、お姉さんから、お父様が先日、戸建ての自宅をわずか400万円という相場とかけ離れた安価な金額で売却し、月額家賃4万円のリースバック契約を結んでいたことを聞かされたそうです。お父様は以前から認知症の疑いがあり、自分の住所さえ書けない状態でした。ご家族は大切な自宅を取り戻したいと強く願っています。
【ポイント】
- ご家族に認知症の疑いがある場合、自宅の売却や契約については特に注意が必要です。
- 認知症の高齢者が不利益な契約を結んでしまった場合でも、状況によっては契約の無効を主張できる可能性があります。
クーリングオフが通用しない!不動産取引の落とし穴
事例のような悪質な押し買いが後を絶たない背景には、不動産取引特有の制度的な問題があります。2013年の特定商取引法改正により、貴金属などの押し買いにはクーリングオフ制度が適用されるようになりましたが、不動産取引は残念ながらその対象外です。宅地建物取引業法にもクーリングオフの規定はありますが、それは不動産業者が売り主である場合に限られ、高齢者のように自宅を売却する側には適用されません。これが、悪徳業者に付け入る隙を与えていると言えるでしょう。
消費生活センターへの相談が急増!リースバックには特に要注意
国民生活センターのデータによると、全国の消費生活センターに寄せられる不動産のリースバック契約に関する相談件数は2023年度から急増しており、2019年度には24件だった全国の相談件数が、2023年は221件、2024年度は239件となっています。
特に一見魅力的に見える「リースバック」には注意が必要です。「まとまった資金が得られる」「住み慣れた家でそのまま暮らせる」といったメリットが強調されますが、悪質な業者は、不動産の知識や判断力が十分でない高齢者をターゲットにし、相場を大幅に下回る価格で自宅を買い叩き、その後、高額な賃料を請求するなどといった卑劣な手口を繰り返しています。買い取り価格の根拠を曖昧にしたまま契約を結ばせたり、認知症を患う高齢者に強引に契約させたりする悪質な事例も報告されています。解約しようとすると、「手付金の倍返し」などとして高額な違約金を請求されるケースもあり、被害は深刻です。
大切な資産を守るために!具体的な対策と相談窓口【練馬区の相談窓口も活用を】
悪質な「押し買いリースバック」から大切な資産と安心した老後を守るためには、業者の甘い言葉を鵜呑みにせず、少しでも不審に感じたらすぐに誰かに相談することが何よりも重要です。
国土交通省もリースバックに関する注意点まとめたガイドブックも公表しています。「住宅のリースバック関するガイドブック)」
- 必ず複数の不動産業者から査定を受け、価格の根拠や相場について詳しく説明を受ける。 一社の言いなりになるのは非常に危険です。
- 賃貸契約の内容(特に契約期間や更新の可否)を慎重に確認する。「定期借家契約」の場合、契約期間が満了すれば再契約できない可能性があります。 口約束だけでなく、必ず契約書面で確認しましょう。
- 少しでも不安点や不審点があったりしたら、その場で絶対に契約せず、信頼できる家族や専門家(不動産業者、弁護士や司法書士、行政書士、消費生活センターなど)に相談しましょう。
大切な老後の生活を守るためにも、不安を感じたら迷わず最寄りの消費生活センターや、お住まいの自治体の相談窓口、信頼できる家族や専門家などにご連絡ください。